この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plant Science Today

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

トウモロコシは食料・飼料・工業原料として世界で広く使われる重要な穀物です。一方で、農業は世界の淡水利用の約7割を占めるとされ、地域によっては8〜9割に達します。限られた水でどれだけ収量を確保できるかが、栽培上の大きな課題になっています。

注目されている方法の一つが地中点滴かんがい(SDI)です。これは点滴チューブを地表ではなく土の中に埋め、作物の根の周りへ直接水と肥料を届けるやり方で、地表からの蒸発や流出による損失を抑えられると考えられています。著者らによれば、畝の間隔(条間)やチューブの吐出量が収量に影響することはそれぞれ研究されてきたものの、両者を組み合わせて熱帯・亜熱帯の条件で検討した例は比較的少ないとされています。

そこで研究チームは、地中点滴かんがいのもとで畝間隔と吐出量をどう組み合わせると、雑種トウモロコシの生育と収量がもっとも高まるかを調べることを目的に、圃場試験を行いました。

何をどのように調べたか

試験はインド・タミルナードゥ州チェンガルパットゥにあるSRM農業科学大学の圃場で、2025〜26年の乾季作(ラビ期)に実施されました。土壌は埴壌土で、弱アルカリ性(pH 7.6)、非塩性の条件でした。用いた品種は生育期間110〜115日の雑種トウモロコシNK 6802で、播種は2026年2月6日に行われています。

試験は乱塊法(区画をまとめて繰り返しを設ける標準的な配置)で3反復、8処理を設けました。処理は、地中点滴かんがいのもとで3種類の畝間隔(30/90、45/75、60/60 cm)と2種類の吐出量(毎時2リットルと4リットル)を組み合わせたものに加え、比較のための地表点滴かんがいと、従来の畝間かんがい(溝に水を流す方法)を含みます。点滴チューブは地表から20 cmの深さに埋設されました。株の数は処理によらず1ヘクタールあたり83,333株にそろえ、畝間隔に応じて株間を調整しています。かんがいは作物の蒸発散量にもとづき3日間隔で行い、水溶性肥料は点滴системを通して分けて施用されました。

観察項目は、草丈、葉面積指数(単位地面あたりの葉の広がりの指標)、乾物生産量、SPAD値(葉の緑色から葉緑素や窒素の状態を推定する計測値)などの生育指標と、100粒重、収穫指数(地上部全体のうち子実が占める割合)、子実収量、茎葉収量といった収量関連の指標です。データは分散分析により5%水準で評価されました。

報告された主な結果

著者らの報告では、100粒重と収穫指数を除く生育・収量の指標で処理間に有意な差が認められました。とくに、45/75 cmの畝間隔と毎時2リットルの吐出量を組み合わせた地中点滴かんがいの区(T2)が、葉面積指数、乾物生産量、SPAD値のいずれでも最も高い値を示したと述べられています。たとえば播種後60日の葉面積指数は3.38、乾物生産量は4,228 kg/haでした。

収量でも同じ区が最も高く、子実収量7,256 kg/ha、茎葉収量12,797 kg/haと報告されています。これに次いだのは同じ45/75 cmの畝間隔で吐出量を毎時4リットルにした区でした。一方、従来の畝間かんがいの区は子実収量5,294 kg/ha、茎葉収量9,336 kg/haで、いずれの指標でも最も低い値となりました。なお、100粒重は最高23.40 g、最低22.45 gと差が小さく、統計的に有意ではなかったため、著者らはこの形質が主に品種の遺伝的性質に左右され、今回の条件ではかんがい方法や栽植配置の影響を受けにくいと解釈しています。

水の使用量については、点滴を用いた区(地中・地表とも)の総使用量が481 mmだったのに対し、従来の畝間かんがいの区は600 mmでした。著者らは、この差が生じた理由として、局所的に水を与えることで送水途中や蒸発による損失が減ったことを挙げています。

著者らは、T2で成績が良かった理由を、適切な栽植配置と根の周囲への正確で均一な水・養分の供給が組み合わさり、生育と同化産物の移動が促されたためと説明しています。

この研究が示すこと

この試験は、地中点滴かんがいの効果が「埋設するかどうか」だけで決まるのではなく、畝間隔と吐出量という二つの設定の組み合わせによって変わりうることを、一つの圃場での実測として示しました。同じ地中点滴でも配置や吐出量が違えば生育も収量も差が出た、という点が要になります。

著者らは、同様の農業気候条件のもとでトウモロコシの生産性を高める方法として、45/75 cmの畝間隔と毎時2リットルの吐出量による地中点滴かんがいを挙げています。水が限られる地域で、かんがい設備の設定をどう詰めるかを考えるうえでの一つの手がかりといえます。

著者:Chacko J Priyanjena(Department of Agronomy, SRM College of Agricultural Sciences, SRM Institute of Science and Technology, Baburayanpettai, Chengalpattu 603 201, Tamil Nadu, India)、S Ramadass(Department of Agronomy, SRM College of Agricultural Sciences, SRM Institute of Science and Technology, Baburayanpettai, Chengalpattu 603 201, Tamil Nadu, India)、A Rajeshkumar(Department of Agronomy, SRM College of Agricultural Sciences, SRM Institute of Science and Technology, Baburayanpettai, Chengalpattu 603 201, Tamil Nadu, India)、K Anbukkarasi(Department of Natural Resource Management, SRM College of Agricultural Sciences, SRM Institute of Science and Technology, Baburayanpettai, Chengalpattu 603 201, Tamil Nadu, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chacko J Priyanjena, S Ramadass, A Rajeshkumar, et al. Assessment of row spacing and emitter flow rate for enhancing growth and yield of maize (Zea mays L.) under subsurface drip irrigation. Plant Science Today 2026-08-30. DOI: 10.14719/pst.15848. 原著ライセンス:CC BY.