この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を目的とした研究か

トウモロコシは、メキシコや中米をはじめ世界の多くの地域で主食となり、食文化や社会的なアイデンティティとも深く結びついてきた作物です。食用だけでなく、飼料や燃料、工業原料としても幅広く使われています。著者らは、これまでの品種改良が主に収量や病害への強さ、土地への適応に向けられてきた一方で、粒の品質そのもの――栄養の中身や加工のしやすさ、最終的な用途との相性――についての理解はまだ十分でないと指摘しています。

この研究の目的は、トウモロコシの粒がどれだけ多様な姿と成分を持つのかを、大規模なデータで描き出すことです。具体的には、(1)在来品種と交配種の主な形質を比べること、(2)粒の構造と栄養の質との結びつきを探ること、(3)とくに在来品種の粒が、粒まるごとを利用する栄養豊かな food として持つ可能性を評価すること、の三点が掲げられています。ここで「在来品種(ランドレース)」とは、小規模農家が世代を超えて各地の環境に合わせて育ててきた、遺伝的に多様な在来の系統を指します。一方「交配種(ハイブリッド)」は、性質の定まった親系統どうしを人の手で掛け合わせて作られ、性質がそろいやすい改良品種です。

どのように調べたか

著者らは、CIMMYT(国際トウモロコシ・小麦改良センター)のトウモロコシ品質研究室で2011年から2022年にかけて分析された1554点の試料――在来品種995点、交配種559点――のデータをまとめました。粒の物理的・化学的・栄養的な形質について、合わせて15,514件の測定値が含まれます。試料は複数の研究課題や育種計画、遺伝資源の増殖作業、農家の圃場からの収集に由来し、主に中南米の多様な農業生態環境を反映しています。

測定された項目は幅広く、千粒重(粒の大きさの目安)、容積重(粒の詰まり具合)、種皮や胚芽、胚乳といった粒の各部位が占める割合、色、大きさ、硬さといった物理的な性質に加え、タンパク質・デンプン・油分の含有率、必須アミノ酸であるリシンとトリプトファン、鉄と亜鉛、黄色系のトウモロコシに含まれるカロテノイド類(体内でビタミンAになるプロビタミンAカロテノイドを含む)、青色系に含まれるアントシアニン(色素成分)などが調べられました。

著者ら自身が丁寧に断っているとおり、この資料は年も場所も異なる試料を集めた歴史的なデータセットであり、遺伝的な要因と環境の影響を切り分けることはできません。そのため統計解析は、遺伝や環境の寄与を推定するためではなく、在来品種と交配種、あるいは粒の色といったグループ間の変異のパターンを記述するために用いられています。分析項目によって利用できる試料数は異なり、交配種ではトリプトファンとリシンが、在来品種では容積重が測定されていません。なお、相関(いっしょに増減する関係)が示されているのであって、原因と結果を確かめたものではない点にも注意が必要です。

主な報告結果

全体を通じて、在来品種は交配種よりも形質のばらつきが大きいことが報告されました。色についてみると、交配種は白と黄色が中心で明度がやや高いのに対し、在来品種は赤や青を含む幅広い色を含んでいました。粒の構造でも、先端のキャップ部分や種皮の割合は在来品種のほうが広い範囲に分布し、胚芽の割合のばらつきも大きい一方、平均値では交配種がわずかに高い胚芽割合を示しました。胚芽と胚乳のあいだ(R = −0.761)、種皮と胚乳のあいだ(R = −0.455)には強い負の相関がみられ、粒の各部位が互いに取り合う関係にあることがうかがえます。粒の大きさでは在来品種が平均して大きく、交配種は硬さが高く粒が小さいという対照的な傾向が示されました。

三大成分では、タンパク質・デンプン・油分のいずれについても在来品種のほうが変異が大きく報告されました。タンパク質とデンプンのあいだには負の相関(R = −0.518)があり、これは登熟期に光合成産物をめぐる競合が起きている可能性を示すものと解釈されています。デンプンは粉質胚乳の割合と負の相関(R = −0.484)、硬質(ガラス質)胚乳と正の相関(R = 0.597)を示しました。油分は胚芽の割合と正の相関(R = 0.312)を示し、胚芽はおよそ50%が油分で、粒全体の油の約85%を担うと説明されています。平均すると在来品種のほうが油分が高く、なかでも青色のトウモロコシで有意に高い値が報告されました。

カロテノイドは黄色系の試料で比較され、総カロテノイドとプロビタミンAはいずれも交配種が有意に高い値を示しました。著者らはこれを、微量栄養素を高めるために開発された生物学的強化(バイオフォーティフィケーション)品種が交配種に含まれていることを大きな理由として挙げています。ただし、強化されていない従来型の黄色交配種と比べると在来品種のほうが高く、在来の遺伝資源が天然のカロテノイドの重要な貯蔵庫であることが示されました。粒の硬さと総カロテノイドのあいだには正の相関(R = 0.432)があり、カロテノイドの大半が胚乳、とくに硬質胚乳に集まっているという知見と整合します。

色素であるアントシアニンについては、分析された青・赤・多色の粒はすべて在来品種に由来していました。含量の変異は大きく、青色のトウモロコシが赤や多色よりも一貫して高い濃度を示しました。ただし著者らは、青色の試料数が886点と、赤(48点)や多色(33点)に比べて著しく多く、この違いの大きさに影響している可能性があると注意を促しています。また、アントシアニンと油分に正の相関(R = 0.556)がみられた一方、その仕組みは未解明であり、粒の大きさの影響や組織内での分布の違いが関わる可能性が挙げられていますが、本研究のデータでは直接検証できなかったと述べられています。

鉄と亜鉛では、在来品種が平均して高い値を示しました。亜鉛は在来品種で22.69 ± 3.57 mg kg⁻¹、交配種で18.98 ± 2.96 mg kg⁻¹、鉄は在来品種で29.95 ± 3.14 mg kg⁻¹、交配種で21.55 ± 3.29 mg kg⁻¹でした。亜鉛と鉄のあいだには正の相関(R = 0.483)があり、両者の蓄積に共通した、あるいは近い生理的な経路が関わっている可能性が示唆されています。どちらの元素も粒の大きさと正の相関(それぞれR = 0.446、R = 0.427)を示しました。なお著者らは、鉄については粒の濃度が一般に栄養上の大きな効果を得るには不十分とされ、加工されたトウモロコシ製品では吸収を妨げる成分もあるため、これまで鉄の強化の主な対象にはなってこなかったと説明しています。

データ全体から栄養価の高い試料を選び出したところ、鉄と亜鉛が高い試料の多くは在来品種、とくにメキシコ中部・南部の伝統的な農業システムに由来するものでした。対照的に、プロビタミンAカロテノイドが高い試料は主に交配種であり、アントシアニンが高い試料では青や赤の有色在来品種が目立ちました。

この研究が示すこと

著者らはこれらの結果から、在来品種と交配種は互いに置き換えられるものではなく、補い合う栄養の特徴を持つと結論づけています。在来品種は変異が大きく、平均するとミネラルや脂質、植物由来の機能性成分をより多く含む傾向があるのに対し、交配種はデンプンやカロテノイドの特性がよりそろっている、という整理です。

もうひとつ強調されているのは、粒の構造と栄養の結びつきです。胚芽の割合や種皮の厚さ、胚乳のタイプといった形質は、栄養の質をうかがう実用的な手がかりとして選抜に活かしうると述べられています。同時に、栄養的な価値は含有量だけでは測れず、粒の解剖学的な構造や遺伝的背景、加工の条件が、成分の保持や体内での利用しやすさを左右する点にも注意が向けられています。

そして著者らは、遺伝資源のコレクションを単なる保存庫としてではなく、栄養的な多様性を見つけ出し、特徴づけ、活かしていくための場としてとらえ直すことを提案しています。すでに調べられた系統は育種や研究にすぐ使える一方、遺伝子銀行に保存されたまま未解明の多くの系統には、まだ知られていない性質の組み合わせが眠っているかもしれません。一粒のトウモロコシの姿かたちの違いが、そのまま栄養の多様性の地図になっている――この研究は、そうした見方を大きなデータで裏づけています。

著者:Rosales A(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.)、Burgueño J(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.)、Gómez-Pérez V(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.; Agronomy Department, Universidad Autónoma de Sinaloa, Culiacán C.P. 80020, Sinaloa, Mexico.)、Molina A(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.)、Cabrera-Soto L(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.)、Chassaigne A(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.)、Palacios-Rojas N(International Maize and Wheat Improvement Center (CIMMYT), Texcoco C.P. 56230, Edo. de Mexico, Mexico.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rosales A, Burgueño J, Gómez-Pérez V, et al. Unveiling the Physical and Nutritional Profiling of Grains in Maize Landraces and Hybrids. Foods (Basel, Switzerland) 2026-08-21. DOI: 10.3390/foods15162933. 原著ライセンス:CC BY.