もち米を発酵させて造る中国の伝統的な甘い醸造酒「甘酒(グルーティナスライスワイン)」は、独特の香りと甘みを持つ飲み物として親しまれています。今回紹介する研究では、この伝統的な甘酒に緑茶パウダーを加えて一緒に発酵させることで、香りや健康面に関わる性質がどのように変化するかを調べています。研究チームは貴州大学茶学院、貴陽大学食品科学工程学院などに所属する研究者らで構成されています。
研究では、緑茶パウダーを加えて発酵させた「ティー・グルーティナスライスワイン(TRW)」と、緑茶を加えない従来の甘酒(TSW)を比較しています。
香り成分と機能性はどう調べられたのか
香りの分析には、HS-SPME-GC-MS(固相マイクロ抽出とガスクロマトグラフィー質量分析を組み合わせた手法)と電子鼻(E-nose)が用いられ、発酵中の揮発性有機化合物(VOCs)、微生物の働き、酵素の変化が調べられました。その結果、合計135種類の揮発性有機化合物が同定され、さらにROAV(相対香気活性値)という指標による分析で、香りへの寄与が大きい主要な香気成分として37種類が特定されました。
なかでも注目されたのが、4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンとフェニルアセトアルデヒドという二つの化合物です。これらはクローブ(丁子)やはちみつを思わせる独特の香りをもたらす成分で、微生物と酵素の働きによるアミノ酸代謝を通じて生成されると report されています。
機能性については、試験管内(in vitro)での評価が行われ、TRWは従来の甘酒(TSW)と比べて抗酸化能が有意に高いことが示されました。また同じくin vitro試験において、血圧・血糖値・血中脂質(トリグリセリド)の上昇を抑える働きがあることも報告されています。加えて、TRWはアルコール度数と糖分がTSWより低い点も確認されており、これらの結果から、緑茶パウダーを加えることで甘酒の香りのプロフィールと栄養的な価値を高められる可能性が示唆されています。
この研究をどう受け止めるか
ここで示された抗酸化能や血圧・血糖・血中脂質への作用は、いずれも試験管内(in vitro)での実験結果であり、人が実際に飲んだ場合に同じ効果が得られるかどうかを示したものではありません。香り成分の同定や機能性評価は特定の条件下での分析結果であり、この一つの研究をもって効能が確立されたと断定することはできません。今後、ヒトを対象とした研究など、さらなる検証が必要な段階にあるといえます。
まとめ
この研究は、緑茶パウダーを加えて発酵させることで、伝統的なもち米甘酒の香りにクローブやはちみつを思わせる新たな特徴が加わり、抗酸化能なども試験管内で高まる可能性を示したものです。アルコールや糖分を抑えつつ風味や機能性を工夫した飲料開発の一例として、今後の研究の広がりが注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Deyi Yang, Dajuan Shi, Xueyue Deng, et al. Impact of green tea powder on the flavor and functional properties of fermented glutinous rice sweet wine. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104251. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.