魚のスープは、身のうまみや栄養が出汁にどれだけ溶け出すかで味わいが大きく変わります。しかし従来のティラピア(テラピア)スープづくりには、魚の組織から出汁への可溶性成分の溶出が少ない、栄養素が十分に溶け出さない、風味が失われやすいといった課題があるとされています。近年ではコロイドミル処理(食材を細かくすりつぶすような処理)や超音波処理といった物理的な加工技術を使うとスープの品質が向上することが知られていますが、これらを組み合わせて使う場合、どちらを先に行うかという『処理の順序』がどのような影響を与えるのかは、これまであまり詳しく調べられていなかったといいます。
そこで今回紹介する研究では、ティラピアスープの製造において、コロイドミル処理の後に超音波処理を行う方法(CMUFS)と、逆に超音波処理の後にコロイドミル処理を行う方法(UCMFS)という2つの処理順序を比較し、スープの微細構造・栄養組成・風味・全体的な品質にどのような違いが生じるかを検討しました。分析には、対象を絞らずに代謝物を網羅的に調べるメタボロミクス(未標的代謝物解析)や、香り成分を調べるボラティロミクス(揮発性成分解析)、電子的な味覚・嗅覚センサーによる評価、成分同士の関連性を探る相関ネットワーク解析など、複数の解析手法が組み合わせて用いられました。
研究でわかったこと
結果として、コロイドミル処理を先に行ったCMUFS群では、油滴のサイズがより小さく(D4,3=16.51 μm)、より安定した懸濁液が得られたと報告されています。一方で、加水分解アミノ酸の総含有量は284.9 mg/100 mLと少なく、アミノ酸スコア(栄養価の指標の一つ)も13.4と低い値にとどまりました。これは、先にコロイドミル処理による強いせん断力を加えたことでタンパク質の凝集が起こり、その後の超音波処理でも凝集を十分にほぐせず、栄養素が緻密な構造の中に閉じ込められてしまったためと考察されています。
これに対し、超音波処理を先に行ったUCMFS群では、油滴のサイズはCMUFS群より大きく(D4,3=28.77 μm)、懸濁液の安定性もやや劣るものの、アミノ酸スコアは24.9(CMUFS群と比べて86%の向上)と高く、電子舌によって測定された風味の豊かさの指標(リッチネス値)も0.663と、より豊かな風味を示したとされています。研究チームは、超音波処理を先に行うことでせん断による初期のタンパク質凝集を避けられ、材料がより十分に分散し、せん断によるタンパク質構造への損傷も抑えられると説明しています。その結果、メイラード反応(加熱によって風味成分が生まれる反応)や脂質酸化の経路に使われる基質がより多く利用可能になったと考えられるとしています。
さらにメタボロミクス解析では、脂質代謝やアミノ酸代謝に関わる15種類の差異代謝物(処理順序によって量が変化した代謝物)が同定されました。これらの結果から、超音波処理を先に行う順序(UCMFS)は、栄養価と風味品質の両方を高める可能性が示唆された、と論文では述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ティラピアスープを対象に特定の2種類の処理順序を比較した一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。また、油滴の微細さや懸濁液の安定性ではコロイドミル処理を先に行う方法に利点があるとされており、どちらの処理順序が総合的に優れているかは、重視する品質特性(栄養面か、構造の安定性かなど)によって評価が分かれる可能性がある点にも留意が必要です。論文では、これらの知見は水産物スープの製造における『処理順序に基づいた品質調整』のための理論的な基盤を提供するものと位置づけられています。
まとめ
今回の研究では、ティラピアスープの製造において、コロイドミル処理と超音波処理をどちらの順序で行うかによって、油滴の大きさや懸濁液の安定性、アミノ酸含有量、風味の豊かさなどに違いが生じることが報告されました。特に超音波処理を先に行う方法では、アミノ酸スコアや風味の豊かさの指標が向上したとされ、処理順序という観点からスープの品質を調整できる可能性が示された研究といえます。 ※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:逐次的物理場前処理がティラピアスープの品質を調節する:風味と栄養に関する処理順序のマルチオミクス研究(ウルトラソニックス・ソノケミストリー・2026年09月掲載予定)