著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:食事の効果は遺伝子で変わるのか
2型糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、そして代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、代謝の異常を背景に肝臓へ脂肪がたまる病気)は、生まれ持った遺伝的な体質と、食事や生活習慣などの環境要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。著者らによれば、これらの代謝疾患の負担はこの30年でおおむね増え続けており、特に2型糖尿病と肥満の伸びが目立つと報告されています。
食事のパターンの中でも、オリーブオイル、ナッツ、野菜などを中心とする地中海食は、代謝の健康の改善や心臓・代謝に関わる病気のリスク低下と、一貫して関連づけられてきました。一方で、同じ食事をしても体の反応には個人差が大きく、その一部は遺伝的な違いによるのではないかと考えられています。
この論文は、遺伝的な違いが食事への反応にどう影響するかを調べる「栄養遺伝学」の分野で、過去約20年に行われてきた研究を集めて整理した総説です。研究チームは、地中海食を守ることが代謝疾患に関わる遺伝的リスクの影響を変えうるのかについて、現在の知見をまとめることを目的としています。
どのように調べたか
著者らは、医学文献データベースのPubMedを用いて、地中海食やその主な構成要素(エキストラバージンオリーブオイル、一価不飽和脂肪酸、ナッツなど)、遺伝的な変異や遺伝的リスクの指標、そして代謝に関わる病気や指標という三つの観点から文献を検索しました。対象は、遺伝的な要因と地中海食のあいだの「相互作用」、つまり遺伝的な体質によって食事の影響が異なるかどうかを調べた研究です。観察研究と介入研究の両方が含まれています。
なお、この検索は関連する知見を集めて統合するための的を絞ったものであり、発表されたすべての研究を網羅的に評価する系統的レビューではないと、著者ら自身が明記しています。
代謝疾患の遺伝的な背景と研究手法の変化
論文はまず、代謝疾患がどの程度遺伝するかを紹介しています。双子や家族を対象とした研究から、遺伝の影響の大きさを示す推定値は、肥満でおよそ40〜70%、2型糖尿病で最大72%、メタボリックシンドロームで27〜64%、MASLDで30〜60%と報告されています。
そのうえで、病気ごとに代表的な遺伝子が紹介されています。たとえば2型糖尿病では、インスリンの分泌などに関わるTCF7L2遺伝子の特定の変異が最も強い遺伝的要因の一つとされ、肥満ではFTO遺伝子やMC4R遺伝子、メタボリックシンドロームではADIPOQ遺伝子などの脂肪組織や脂質代謝に関わる遺伝子、MASLDでは肝臓の脂質処理に関わるPNPLA3遺伝子などが挙げられています。さらに、体内時計を制御するCLOCKなどの遺伝子も、代謝疾患のなりやすさに関わる可能性が示されています。
ただし著者らは、一つひとつの遺伝的変異の影響は一般に小さいと指摘しています。そのため研究の流れは、特定の候補遺伝子を一つずつ調べる方法から、多数の変異の影響を足し合わせて一人ひとりの遺伝的なリスクを一つの数値で表す「遺伝的リスクスコア」や「ポリジェニックリスクスコア」を用いる方法へと移ってきました。こうしたスコアは遺伝的な体質をより包括的にとらえられる一方、元になった大規模遺伝子研究の多くがヨーロッパ系の人々を中心としているため、異なる祖先集団では予測の精度が下がるという課題も論文で述べられています。
主な結論とその意味
研究チームが集めた文献を総合すると、地中海食の良い効果は、遺伝的なリスクが高い人にも低い人にも、さまざまな程度の遺伝的体質にわたって観察されているとまとめられています。一方で、遺伝子と食事の相互作用が臨床的に意味のある大きさで存在することを支持する証拠は、研究によって結果がまちまちで、まだ限られていると著者らは結論づけています。
このため著者らは、遺伝情報に合わせて地中海食の勧め方を個別に変えることを日常の診療で行うには、多様な祖先集団を含む大規模で適切に設計された研究による裏づけが必要だとしています。今回の総説からは、遺伝的な体質にかかわらず地中海食の利点が広く見られる一方、遺伝子に応じた食事の個別化はまだ確立途上にあるという現状が浮かび上がります。
著者:Francesca Gorini(Institute of Clinical Physiology, National Research Council, 56124 Pisa, Italy)、Mariangela Palazzo(Institute of Clinical Physiology, National Research Council, 56124 Pisa, Italy)、Morena Gabriele(Institute of Agricultural Biology and Biotechnology, National Research Council, 56124 Pisa, Italy)、Andrea Borghini(Institute of Clinical Physiology, National Research Council, 56124 Pisa, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Francesca Gorini, Mariangela Palazzo, Morena Gabriele, et al. When Genetics Meets the Mediterranean Diet Across Metabolic Diseases. Nutrients 2026-10-13. DOI: 10.3390/nu18203348. 原著ライセンス:CC BY.