著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜスプラウトを比べたのか
ブロッコリーやキャベツなどアブラナ科の野菜は、抗酸化や抗炎症などの作用との関連が報告されてきました。その作用を担う成分と考えられているのが、グルコシノレートと呼ばれる硫黄を含む化合物とポリフェノールで、発芽したばかりのスプラウトに多く含まれます。代表的なグルコシノレートであるグルコラファニンは、体内や調理の過程でスルフォラファンなどの成分に変わる「前駆体」として知られています。
これまでの研究はブロッコリースプラウトに集中しており、ほかの食用スプラウトとの比較や、腸の健康との関係はあまり調べられていませんでした。また、成分の違いが生物学的な働きの違いにつながるのかも分かっていませんでした。そこで研究チームは、赤キャベツ、チンゲンサイ(パクチョイ)、ブロッコリーの3種類のスプラウトについて、成分と、腸の炎症や上皮バリアの乱れを再現した細胞実験での働きを比較しました。
どのように調べたのか
研究チームは、7日間育てた生のスプラウトを水とエタノールの混合液で抽出し、粉末にした抽出物を用いました。まず、グルコラファニンとスルフォラファンの量、ポリフェノールの総量などを測定しました。
細胞実験には、ヒトの大腸がん由来で腸の表面を覆う上皮細胞に似た性質を持つCaco-2細胞を使いました。この細胞を炎症を起こす物質(炎症性サイトカインと、小麦たんぱく質の成分であるグリアジンを消化したもの)で刺激し、抽出物が炎症の信号物質の放出をどう変えるかを調べました。注目した信号物質の一つが、免疫細胞の一種である単球を呼び寄せるMCP-1です。
さらに、腸の上皮細胞と、炎症を起こさせた免疫細胞(マクロファージ)を同時に培養する方法で、腸の壁から物が漏れやすくなる状態を再現しました。上皮の「バリア」が保たれているかは、細胞の層の電気抵抗(TEER)と、細胞のすき間を通り抜ける蛍光色素の量で評価しました。一部の実験では、口から胃、腸までの消化を試験管内で模した処理を加えた抽出物も使われました。
主な結果
成分分析では、赤キャベツスプラウト抽出物がグルコラファニン(抽出物1グラムあたり約22ミリグラム)とスルフォラファン(同約9.5ミリグラム)を最も多く含み、ブロッコリースプラウト抽出物では最も少なく、研究チームの測定では検出されませんでした。一方、ポリフェノールの総量は3種類でおおむね同程度(抽出物の3.5〜4.5%)でした。
炎症を起こした上皮細胞では、3種類の抽出物がいずれもMCP-1の放出を抑えました。1ミリリットルあたり50マイクログラムの濃度で、チンゲンサイは約48%、赤キャベツは約37%、ブロッコリーは約3割の減少が報告されています。赤キャベツとチンゲンサイでは、模擬的な消化を経た後もこの抑制作用が保たれていました。炎症に関わる転写因子NF-κBの働きを抑えた抽出物はなく、抗酸化の防御に関わる転写因子Nrf-2の働きを高めたのはチンゲンサイのみでした。
上皮細胞と免疫細胞を一緒に培養した実験では、赤キャベツ抽出物が電気抵抗の低下を濃度に応じて部分的に回復させ、色素の漏れ出しも抑えました。つまり、二つの指標の両方でバリアの保持が示されたのは赤キャベツでした。チンゲンサイは色素の漏れ出しの実験でのみ効果が見られました。なお、この同時培養の条件ではMCP-1の抑制作用は見られなくなりました。
遺伝子の働きを幅広く調べた解析では、消化処理後の赤キャベツ抽出物が、細胞同士の接着に関わるCLDN1や炎症に関わるSTAT3の働きを下げる傾向を示しました。ただし、多数の遺伝子を同時に調べたことを考慮して補正すると、これらの変化は統計的に有意ではなくなったと報告されています。
研究から見えてきたこと
著者らは、赤キャベツスプラウトを、細胞実験で上皮バリアの保持と関連する成分の有望な供給源と位置づけています。同時に、グルコシノレートの量が多いほど作用が強いという単純な関係は見られませんでした。このことから、観察された作用は特定の硫黄化合物だけでなく、ポリフェノールを含む抽出物全体の成分の組み合わせによるものかもしれない、と論文は考察しています。今回の結果は培養細胞を用いた実験によるもので、ブロッコリー以外のスプラウトにも注目する意義を示した比較研究といえます。
原著論文の著者・所属:Stefano Piazza(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Carola Pozzoli(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Marco Fumagalli(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Nicole Maranta(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Safwa Moheb El Haddad(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Lorenzo Zanardo(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Luigi Alberto Marrari(Naturalsalus S.r.l., Trezzano Rosa, 20060 Milan, Italy)、Chiara Di Lorenzo(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Giulia Martinelli(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Enrico Sangiovanni(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Mario Dell’Agli(Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences “Rodolfo Paoletti” (DiSFeB), Università degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Stefano Piazza, Carola Pozzoli, Marco Fumagalli, et al. A Comparative Study of Brassica Sprout Extracts on Intestinal Inflammation and Epithelial Barrier Integrity. Foods 2026-09-29. DOI: 10.3390/foods15193494. 原著ライセンス:CC BY.