著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、スウェーデンです。

掲載誌:MAST. Maritime studies/Maritime studies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

都市は「海の食」にどう関わるのか

魚や貝、海藻など、水の中で獲れたり育てられたりする食べものは「ブルーフード」と呼ばれます。その流れは、漁獲や養殖から加工、流通、消費までの長い連鎖でできています。魚介類は世界で最も広く取引される食品の一つで、獲れる場所と食べられる場所が大きく離れていることも少なくありません。そのため、ブルーフードはいくつもの供給経路を通り、さまざまな規模や分野の政策の影響を受けます。

都市の食料政策については多くの研究があり、市の役割にも関心が高まっています。ただし研究チームによれば、ブルーフードの研究では都市の視点がまだ十分に育っていません。そこで著者らは、スペインのバルセロナを事例に取り上げました。市役所は漁業そのものを直接管理しているわけではありません。それでも、食品関連の施設、都市計画、小売の規制を通じてブルーフードのシステムに影響を与えうることを示すのが、この研究の目的です。

バルセロナが選ばれた理由は二つあります。一つは、公的な食料政策に長く取り組んできた都市として国際的に知られていることです。もう一つは、地中海でも有数の魚の流通拠点を抱えていることです。この都市のブルーフードのシステムは、自給自足に近い状態から、欧州連合の中で国際的な食品の拠点へと変わってきました。

80年余りの歴史を多角的にたどる

研究チームは、1940年から2023年までのバルセロナのブルーフードのシステムを歴史的に分析しました。分析にはPESTEL分析という枠組みを使っています。これは、政治、経済、社会、技術、環境、法律の六つの観点から、ある分野を取り巻く要因を整理する手法です。

資料として、250を超える統計資料を検討しました。市の公文書館などからは「魚」「漁業」「鮮魚店」といった語で法令や行政文書を探し、関連する75点を時系列に整理しました。さらに、これまで調べられていなかったカタルーニャ鮮魚店組合の歴史資料も使っています。1940〜1970年の会議録で、1000ページを超えます。2024年には、鮮魚店組合や中央卸売市場の関係者など、主要な立場の4人に詳しい聞き取りを行い、歴史的な経緯や判断の背景を確かめました。

漁業の縮小と、市が手を打てた領域

論文によると、地元の漁業は大きく縮小しました。水揚げは1980年代初めに山を迎えましたが、その後は急に減り、現在は歴史上の最大値のおよそ10分の1になっています。この山の背景には、1970年代に広まった漁具や機関の近代化で漁獲能力が高まったことがあります。その後の減少は、それ以前から続いていた乱獲による生態系への影響と関連づけられています。漁師の数は1943年の2016人から2022年には168人に減りました。2026年1月時点の漁船は22隻で、記録が残る中で最も少ない数です。また、市には漁業を管理する権限がなく、市のレベルで漁業管理の手段をとることはできませんでした。

一方、市は流通と小売の分野で積極的に動いてきました。1953年に再開した中央魚市場では、卸売業者が少数に集中していることを問題視し、意図的に業者の数を増やしました。当時20業者だった市場は、10年ほどで52業者まで増えています。1983年には市場を郊外の大規模な食品流通拠点に移し、冷凍・保管や物流の機能を強めました。周辺の関連事業地区は物流の拠点に育ち、欧州以外の港からの輸入も増えました。ただし、市場の自由化と国際化が進むにつれて業者の集約も進み、2024年の卸売業者数は37にとどまっています。

小売の面では、1947年に新しい鮮魚店の出店場所を公設市場からの距離で厳しく制限する規則を設けました。公設市場の数は1940年から1975年の間に22から36へ増え、1968年には市場の売り場の13%を鮮魚店に割り当てることが定められました。1986年には大型スーパーの拡大を抑える計画を作り、2500平方メートルを超える新しいスーパーの出店を禁じました。しかしこれらの制限の多くは、法廷での争いの末、欧州連合のサービス指令と両立しないとして覆されています。

それでも、バルセロナには独自の特徴が残りました。全国では1999年から2023年の間に、家庭の魚の購入に占める鮮魚店の割合が50%から20%に下がりました。一方バルセロナでは、最新のデータで44%の消費者が市場内の鮮魚店で、22.8%が市場外の鮮魚店で魚を買っています。家庭で消費されるブルーフードのうち生鮮品の割合も、全国平均の40%を14ポイント上回っています。著者らは、これが鮮魚店の役割が比較的強いこととつじつまが合うと述べています。ただし、過去25年間、地元で獲れた魚は家庭の消費量の1割にも満たず、遠くの産地や長い供給網への依存が強まっていることも示されました。

生産ではなく「流通と売り場」から形づくる力

研究チームは、バルセロナの事例が次のことを示していると結論づけています。漁業に生態系の限界があり、市が生産を直接管理できない状況でも、市は流通施設の整備、空間の計画、小売の規制によってブルーフードのシステムに影響を及ぼしうる、ということです。

同時にこの事例は、地元の海と都市の食卓とのつながりが弱まってきたことも映し出しています。地域の需要が漁獲能力の拡大を促し、管理が不十分なまま生態系の限界を超えると、漁業が衰え、漁業の担い手が地域の中で周縁に追いやられていきます。都市の食料政策を考えるうえで、市場や売り場をどう設計するかが、海の食の行方と深く結びついていることを伝える研究です。

原著論文の著者・所属:M. Ortega(Departament de Recursos Marins Renovables, Institut de Ciències del Mar, Consejo Superior de Investigaciones Científicas (CSIC), Passeig Maritim de La Barceloneta 37-49, Despatx B02, 08003, Barcelona, Spain)、A. Garrido(Associació d’Iniciatives Rurals i Marítimes de Catalunya, Torelló, Spain)、S. Gorostiza(LUCSUS (Lund University Centre for Sustainability Studies). Lund University, Lund, Sweden)、M. Coll(Departament de Recursos Marins Renovables, Institut de Ciències del Mar, Consejo Superior de Investigaciones Científicas (CSIC), Passeig Maritim de La Barceloneta 37-49, Despatx B75, Barcelona, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):M. Ortega, A. Garrido, S. Gorostiza, et al. Understanding how local public policies influence blue food systems. The case of Barcelona. MAST. Maritime studies/Maritime studies 2026-10-15. DOI: 10.1007/s40152-026-00524-6. 原著ライセンス:CC BY.