著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:The Journal of the Food and Culture of the Americas
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
活動のねらい
抗がん剤治療(化学療法)や放射線療法は、がん治療で広く使われている一方、吐き気、食欲の低下、味覚の変化、口の中の炎症(粘膜炎)、飲み込みにくさなどの副作用を起こすことがあります。著者らは、こうした症状が食事を妨げ、栄養状態や生活の質に悪影響を及ぼすことを背景として挙げています。
この論文は、ブラジルのアルフェナス連邦大学の栄養学部に置かれた学生の教育プログラム(PET栄養)が2024年の1年間に行った地域貢献活動「NutriINDO:希望の味」の実践報告です。活動の主な目的は、がんの予防と治療における食事の大切さを伝えることでした。対象は大学の学生や教職員に加え、地域のがん患者支援団体を利用する患者とその家族です。
著者らは、この取り組みを「食と栄養の教育」として位置づけています。これは、正しい食べ方を一方的に指示するのではなく、人々が自分の暮らしに合わせて食の選択を考え、決められるよう支える教育を指します。活動の計画には、人の行動の変化を「まだ関心がない」段階から「習慣として続けている」段階までに分けて捉える行動変容の考え方が用いられました。
行われた6つの活動
活動は6回にわたって行われました。最初の2回は、患者支援団体と大学構内で開かれた説明会です。紙芝居のように1枚ずつめくって見せる掲示用の教材や、レシピ冊子を使って対話しながら情報を伝え、治療の副作用や、必要なエネルギーと栄養をとり続ける工夫について参加者の質問に答えました。レシピは、栄養があり、作りやすく、地域の食文化に合い、費用を抑えたものとして作られ、大学での回には試食も行われました。
3回目は、大学の調理実習室で開いた料理教室です。抗がん剤治療中によく訴えられる「口の中に金属のような味がする」症状を和らげることを狙いにレシピが考案されました。研究チームは、酸味のあるさわやかなパイナップルや、清涼感のあるミントを使った理由を説明しています。また、なめらかで冷たいフローズンタイプの品は、飲み込みにくさや口内の痛みがある人に適した選択肢になるとしています。
4回目と5回目は、インスタグラムを使ったライブ配信です。一つは、自身も乳がんの診断と治療を経験した栄養士が、味覚の変化や疲労感、気持ちの面での影響に触れながら、一人ひとりに合わせた栄養支援の大切さを語るものでした。もう一つは、栄養士と看護師が、病気を治すこと自体が主な目標でなくなった段階で、心身のつらさを和らげることを重視するケア(緩和ケア)における食事の役割を話し合うものでした。
最後の6回目は、食事の計画をテーマにした料理教室です。安価で栄養があり、食べやすいレシピを紹介したほか、野菜の皮や茎、葉まで使い切る調理も取り上げ、家計にやさしく無駄の少ない食事について考える機会としました。
報告された結果
著者らによると、一連の活動は、専門的な科学の知識を参加者に分かる言葉と暮らしに即した形で伝える場となりました。特に料理教室では、治療中に起こりがちな食の困りごとへの対処法を参加者が実際に体験できたことが、講義だけの方法にはない特長として挙げられています。ライブ配信については、体験談を通じて参加者が自分と似た状況を重ね合わせ、受け止めてもらえる場になったと述べられています。
数値として示された結果は、2回のライブ配信の視聴回数です。合計は2,225回で、内訳は緩和ケアの回が910回、体験談の回(2部構成)が1,315回でした。ただし、著者ら自身も、この数字だけで食習慣の変化や知識の習得を判断することはできず、活動がどれだけ広く届いたかを示すものだと説明しています。
参加した学生にとっては、患者や家族、さまざまな分野の専門職と直接関わることで、共感を伴うコミュニケーション、相手の話をよく聴く姿勢、チームでの協力、科学的根拠に基づく判断などを身につける機会になったと報告されています。
一方で、著者らは限界も示しています。患者や家族の対面参加は予想より少なく、その理由として、体調の制約、移動の難しさ、治療期間中の負担などが考えられるとしています。また、実践報告であるため、知識や食行動、生活の質の変化を測る検証済みの評価方法は使われていません。そのため、活動の効果を客観的に測ることはできないとされています。
この報告が示すこと
この報告は、がん治療中の人の食の困りごとに、大学が対面の料理教室とオンライン配信を組み合わせて向き合った一つの実例を示しています。活動の効果そのものは測られていませんが、著者らは、科学的根拠に基づく内容を参加型の方法で伝える取り組みが、地域の患者と家族を支える場になると同時に、学生が実践を通じて学ぶ場にもなり得ると結論づけています。
原著論文の著者・所属:Cristiane da Silva Marciano Grasselli(Universidade Federal de Alfenas)、Yasmim dos Reis Martins(Universidade Federal de Alfenas)、Gabriela Fernandes Pinheiro Silva(Universidade Federal de Alfenas)、Lilian Cristina de Sousa Silva(Universidade Federal de Alfenas)、Nathália Faria Monteiro(Universidade Federal de Alfenas)、Caroline de Fátima Oliveira Carvalho(Universidade Federal de Alfenas)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cristiane da Silva Marciano Grasselli, Yasmim dos Reis Martins, Gabriela Fernandes Pinheiro Silva, et al. NutriINDO - Sabores da Esperança. The Journal of the Food and Culture of the Americas 2026-08-26. DOI: 10.35953/raca.v7i1.234. 原著ライセンス:CC BY.