著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Asian Pacific Journal of Health Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
私たちの腸には多種多様な微生物がすみつき、消化や代謝、腸の防御機能、免疫の働きに関わっています。この微生物のバランスが崩れた状態は「ディスバイオシス」と呼ばれ、消化器、代謝、炎症、免疫、神経発達に関わるさまざまな疾患との関連が報告されてきました。そこで注目されているのがプロバイオティクスです。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は、これを「適切な量を摂取したときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義しています。
一方、ユナニ医学はギリシャとアラブの医学に起源をもつ伝統医学で、南アジアや中東、北アフリカなどで用いられてきました。腸内細菌という考え方がない時代に成立したものですが、消化の働きや食事の調整、体内の均衡を健康の基盤として重視してきました。著者らは、現代のプロバイオティクス研究とユナニ医学の関係は科学的に十分検討されていないとして、両者の概念上・治療上のつながりを整理することを目的にこのレビューを行いました。
どのように調べたか
この論文は、新たな実験や臨床試験を行った研究ではありません。既存の文献を読み解いて論じる「叙述的批判レビュー」です。研究チームはPubMedやGoogle Scholarなどで、プロバイオティクス、腸内細菌叢、ディスバイオシス、免疫調節などの用語と、ユナニ医学の主要概念を組み合わせて検索しました。そのうえで、査読付き論文や古典・現代のユナニ医学書を集めました。
検討の中心となったユナニ医学の概念は次のとおりです。「ミザージ」は個人や臓器ごとの固有の体質・気質を指し、腸にも固有のミザージがあるとされます。その乱れた状態が「スーイ・ミザージ」です。「アフラート」は食物から作られるとされる4種類の体液、「クッワト・ガーズィヤ」は食物を消化・吸収・同化する栄養の働きを指します。「タビーアト」は体にもともと備わる自己調節・回復・防御の力を意味します。著者らはこれらを現代の腸内細菌学の知見と照らし合わせました。目指したのは、両者を「直接同じもの」とみなすことではなく、「概念上の対応関係」を見いだすことです。
主な報告内容
著者らは、四つの対応関係を挙げています。腸内微生物のバランスとミザージは、いずれも腸の均衡を健康の前提とする点で対応すると論じています。ディスバイオシスとスーイ・ミザージは、腸の乱れを病気の発生要因とみなす点で対応するとしています。また、プロバイオティクスによる免疫の調節は体に備わる防御力であるタビーアトに、消化や栄養吸収の促進はクッワト・ガーズィヤに対応するとしました。ただし、アフラート(体液)と腸内細菌がつくる代謝物は異なる理論体系に属する別の概念であり、同一視すべきではないとも明記しています。
さらに論文では、ユナニ医学で伝統的に用いられてきた発酵食品が紹介されています。乳製品としては、バターミルク(チャーチやラッシー)、ヨーグルト(カード)、チーズ(パニール)が挙げられています。非乳製品としては、アーブカーマ(ムッリー、カーンジーとも記される)、生の酢(シルカ)、発酵させた穀物や野菜の調製品が挙げられています。古典文献では、これらが食欲の増進や消化の強化、下痢などの腸の不調に用いられてきたと記されています。
著者らは、発酵乳製品に乳酸菌などの有益な微生物が含まれることが現代の研究で示されていると述べています。また、非乳製品の一部でも乳酸菌や発酵由来の成分が確認されていることを紹介しています。一方で、非乳製品の多くは現代の基準でプロバイオティクスとして科学的に検証されていないことも指摘しています。
両者の違いについても論じられています。現代のプロバイオティクス研究は微生物学的・臨床的な証拠に支えられているのに対し、ユナニ医学の概念は主に質的・哲学的なものです。また著者らは、菌株や摂取量、調製方法、個人の反応のばらつきが、伝統的な利用と現代的な利用の双方で課題になっていると述べています。
この研究が示すこと
このレビューは、現代のプロバイオティクス研究と古くからのユナニ医学の健康観に共通する考え方があることを示しました。共通点は、腸の均衡や体に備わる回復力を重んじるという点です。同時に著者らは、見いだした対応関係はあくまで概念上のものだと強調しています。その多くは理論的段階にとどまり、科学的な検証を必要とするということです。伝統医学の考え方を現代の腸内細菌研究の視点から読み直す際の、一つの整理の枠組みを示した論文といえます。
原著論文の著者・所属:Zuber Ahmad(Department of Ilmul Atfal, State Unani Medical College and HAHRDM Hospital, Prayagraj, Uttar Pradesh, India)、Md Sohail(Department of Ilmul Atfal, State Unani Medical College and HAHRDM Hospital, Prayagraj, Uttar Pradesh, India)、Mo Azhar(Department of Ilmul Atfal, State Unani Medical College and HAHRDM Hospital, Prayagraj, Uttar Pradesh, India)、Danish(Department of Ilmul Atfal, State Unani Medical College and HAHRDM Hospital, Prayagraj, Uttar Pradesh, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zuber Ahmad, Md Sohail, Mo Azhar, et al. Probiotics and the Unani Paradigm of Health: A Critical Analytical Review. Asian Pacific Journal of Health Sciences 2026-08-29. DOI: 10.21276/apjhs.2026.13.3.20. 原著ライセンス:CC BY.