日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

マンゴーは追熟すると皮ごと手軽に食べられる人気の果物ですが、栽培過程では害虫や病気を防ぐために農薬が繰り返し散布されることがあります。タイ北部下部地域(ピチット県、ピッサヌローク県、ペッチャブーン県)で生産される「ナムドークマイ」種のマンゴーを対象に、農薬残留の実態と、それを食べた場合の健康リスクを調べた研究が発表されました。この研究には日本の立命館大学国際関係学部に所属する著者が加わっており、日本関連の国際共同研究として位置づけられます。研究の主体はタイ・チェンマイ大学の研究チームで、日本の著者は共著者の一人として参加しています。

255個のマンゴーを分析、44種類の農薬を調べる

研究チームは2024年4月から7月にかけて、タイ北部下部地域の3県・8地区の果樹園から合計255の混合サンプル(1果樹園につき4本の木からそれぞれ1個ずつ、成熟度70〜80%の果実を採取し混ぜ合わせたもの)を集めました。内訳はピチット県56件、ピッサヌローク県139件、ペッチャブーン県60件です。分析には、農薬を効率よく抽出する「QuEChERS法」と、微量の化学物質を検出できるガスクロマトグラフ・タンデム質量分析計(GC-MS/MS)を組み合わせた手法が使われ、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、有機塩素系の殺虫剤や除草剤アトラジンなど、合計44種類の農薬が対象とされました。この分析方法は事前の妥当性確認(添加回収試験など)を経ており、多くの化合物で良好な精度と回収率が得られたと報告されています。

基準値超えの農薬、そして年齢層ごとのリスク評価

検出頻度が最も高かったのは有機リン系のクロルピリホスで、134サンプル(52.5%)から平均3.8マイクログラム/キログラムが検出されましたが、この値はタイ・国際基準(コーデックス)のいずれも超えていませんでした。一方、ピレスロイド系のエスフェンバレレートは131サンプル(51.4%)、ダニ駆除剤アミトラズは117サンプル(45.9%)、カーバメート系の殺虫剤カルボフランは96サンプル(37.6%)で検出されました。全体として、平均濃度がタイの基準値を超えた農薬は22種類、コーデックス基準を超えた農薬は14種類にのぼりました。特にピレスロイド系のラムダ‐シハロトリンとフェンプロパトリンは、それぞれ平均1009.4、1222.4マイクログラム/キログラムと、他の農薬に比べて高い濃度で検出されています。

健康リスクの評価では、短期間に大量に食べた場合を想定する「急性リスク」と、日常的な摂取を想定する「慢性リスク」の両方が、年齢層別(3〜5.9歳、6〜12.9歳、13〜17.9歳、18〜34.9歳、35〜64.9歳、65歳以上)に計算されました。その結果、カルボフラン、ラムダ‐シハロトリン、フェンプロパトリンの3種類については、急性リスクの指標がすべての年齢層で許容される目安(100%相当)を上回りました。特に6〜12.9歳の子どもでは、体重あたりの果物摂取量が多いことから、カルボフランの推定摂取量が基準の3.3〜5.5倍に達したとされています。さらに、有機リン系・カーバメート系・ピレスロイド系をそれぞれの系統ごとに合算した「累積リスク」でも、複数の年齢層で目安の1を超え、特にピレスロイド系では最大14.546倍という高い値が報告されました。一方、長期的な慢性リスクについては、個別の農薬でも系統ごとの累積値でも、すべての年齢層で目安の1を下回っており、長期にわたってマンゴーを食べ続けた場合の健康リスクは許容範囲内にあると評価されています。

この研究を読むうえでの注意点

著者らは、この研究にはいくつかの限界があると述べています。まず、サンプル採取はタイの3県に限られており、他の生産地域や季節による違いは反映されていません。また、分析対象はあらかじめ選定した44種類の農薬に限られ、それ以外の未知の農薬や関連物質については評価されていません。さらに、リスク評価にはタイの食習慣や体重のデータが使われているため、この結果はタイ国内の消費者を想定したものであり、食習慣が異なる他国の消費者にそのまま当てはめることはできないとされています。加えて、今回の慢性リスク評価はマンゴーのみを摂取源として計算されたものであり、他の食品からの農薬摂取は含まれていない点にも注意が必要です。こうした限界を踏まえ、著者らは今後、より広い地域・季節でのサンプル採取や、対象農薬の拡大、各国の消費実態に応じたリスク評価が必要だとしています。

まとめ

この研究は、タイ北部産マンゴーにおける農薬残留の実態調査であり、長期的な摂取については目安を下回る一方、一部の殺虫剤(カルボフラン、ラムダ‐シハロトリン、フェンプロパトリンなど)については、大量摂取を想定した場合に基準を超える可能性が示されたとする内容です。これは特定のマンゴー製品の安全性について結論づけるものではなく、生産地域や収穫時期によって残留状況は変わりうる、一つの調査研究です。著者らは、継続的な残留モニタリングと適正な農業慣行(Good Agricultural Practices)の徹底が、消費者保護のために重要だとしています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kanlayanee Boonthawee, Phannika Tongchai, Pichamon Yana, et al. Occurrence of Pesticide Residues and Acute, Chronic, and Cumulative Dietary Risk Assessment in Mango (Mangifera indica L.) from Lower Northern Thailand. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15162856. 原著ライセンス: cc-by.