この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

心不全は心臓の病気が進んだ状態で、入院や死亡の割合が高く、医療費の負担も大きい病気だと論文は説明しています。著者らによれば、心不全の患者では低栄養が多くみられ、外来か入院か、また評価方法によって幅はあるものの、その割合は20〜80%と報告されてきました。低栄養は心臓の働きをさらに悪化させ、感染や再入院、死亡のリスクを高めるとされています。

この論文は「低栄養」と「低栄養リスク」を別の概念として区別しています。低栄養は、栄養の摂取や吸収が足りず、すでに体の組成や機能に変化が起きている状態を指します。一方の低栄養リスクは、栄養に関わる要因によって好ましくない経過をたどる可能性が、現にあるか、これから生じうる状態を指します。著者らは、リスクを早い段階で見つける「スクリーニング(ふるい分け)」が、個別の対応を始めるための前提になると位置づけています。

ただし著者らは、心不全に特化した低栄養リスクの定義や評価の道具が定まっておらず、実際の診療の場で栄養の問題が見落とされやすいと指摘します。これまでの研究は有病率や評価ツールに集中しており、低栄養リスクが現場でどう受け止められ、どう扱われているかはあまり調べられてこなかった——そこで研究チームは、患者と医療者の双方の視点から、低栄養リスク管理をめぐる認識・経験・必要としている支援を探ることを目的としました。

どのように調べたか

研究チームは、数値ではなく語られた内容を分析する「記述的質的研究」という方法を用いました。中国・江西省南昌市にある大規模病院の循環器内科で、2025年9月から10月にかけて、心不全の患者15人と、循環器や臨床栄養に携わる医療者15人を、条件に合う人を意図的に選ぶ方法で募りました。医療者の内訳は看護師8人、医師5人、栄養科の医師2人です。

調査は一対一の半構造化インタビュー、つまりあらかじめ用意した質問をもとにしつつ、話の流れに応じて掘り下げる形式で行われました。質問は、低栄養リスクに関する「認識」「見つけ方」「影響」「伝え方」「必要な支援」の五つの側面をカバーしています。患者へのインタビューは11〜32分、医療者へは16〜40分でした。録音は逐語的に文字化され、テーマ分析という手法で1,012の初期コードから主題が組み立てられました。研究チームは、新しい見方が出てこなくなる「飽和」に患者12人・医療者13人の時点で達したと判断し、その確認のため各15人まで面接を続けたと報告しています。

報告された四つの主題

第一に、低栄養リスクの理解は日常の経験に頼っていました。患者の多くは食欲や体力の変化に気づいてはいたものの、それを心不全という病気そのものの症状の一部として受け止め、栄養と結びつけていませんでした。「食べられず力が入らないが、栄養とは関係ないと思う」と語った患者がいた一方、「食べられないときは栄養が足りていないのだろうと分かる」と述べた患者もいます。判断の手がかりは「満腹まで食べられるか」「見るからに痩せているか」に偏りがちで、著者らは、まだリスクの段階にあるものと、すでに目に見えて現れた低栄養とが混同されやすいと述べています。栄養と心不全の関係についての理解も患者ごとに分かれ、影響があると考える人、関係はありそうだがよく分からないという人、無関係だと考える人がいました。医療者側の見方は比較的そろっており、栄養状態が症状の管理や回復、予後に関わると捉えていました。

第二に、心不全という状況では低栄養リスクを見つけること自体に不確かさが伴っていました。医療者が共通して挙げたのが、体にたまる水分(浮腫やむくみ)の影響です。むくみによって体重が増えるため、食べられていないことや実質的な体重減少が覆い隠されてしまう、という指摘でした。ある看護師は、体重減少を手がかりとする既存のスクリーニング道具が心不全の患者にはそのまま当てはまらない場合があると語っています。さらに、入院患者に栄養スクリーニングを一律に行っているかどうかについて、医師らの説明は食い違っていました。栄養科の医師は、スクリーニングはあくまで第一段階であり、その後に詳しい評価が必要だと強調しています。

第三に、栄養に関するやり取りは、共通の理解にたどり着きにくいものでした。「低栄養」という言葉への受け止め方は患者によって大きく異なり、外来で告げられて恥ずかしく感じたと語る患者がいる一方、はっきり伝えてくれたほうがありがたいと述べる患者もいました。看護師の中には、この言葉が非難のように響きうると考え、「栄養が足りていない」といった、より中立的な言い方を選ぶ人もいました。また患者と医療者の双方が、一般的な情報だけでは日々の食事に結びつかないと述べ、具体的で分かりやすく、実行に移せる助言を求めていました。ある患者は「何が足りず何を補えばよいのかを直接教えてほしい」と語り、栄養科の医師は「紙を渡しても読まれるとは限らず、こちらの理解と患者の理解はまったく別の水準にあることがある」と述べています。

第四に、低栄養リスクへの対応は、治療上の要請と現実の制約の中で実行しにくいものでした。患者は塩分などの食事制限と栄養の確保を両立させる難しさを語り、看護師は心不全の増悪時にはまず水分量の管理と安全の確保を優先すると述べました。医師からは、静脈から栄養を入れる方法では水分量が増えて心不全を悪化させかねないという懸念も挙がっています。家庭での実践にも壁がありました。長年の食習慣を変えられないという患者、助けたいが何がよい食べ物か分からない家族、そして説明の場に肝心の調理担当者が同席していないという医療者の指摘です。医療者側の体制についても、心不全に特化した栄養の研修が少ないこと、リスクのある患者を継続的に見守る担当者や資源がないこと、栄養科から示される献立計画が複雑で覚えにくいことが語られました。

この報告が示すこと

著者らは、心不全患者の低栄養リスク管理を、リスクの理解、臨床での把握、効果的なやり取り、そして家庭での実践という段階が続く一つの連続した過程として捉えています。この調査からは、患者と医療者が栄養管理の必要性そのものは共有しながらも、リスクの説明の仕方、伝え方の好み、現場で何を優先するかにおいて食い違っていたことが報告されました。

論文の結論として著者らは、多面的で変化を追える栄養リスク評価を強めること、日常生活に即した具体的で実用的な言葉でのやり取りを進めること、そして多職種の連携と家族の参加によって、スクリーニングから評価、紹介、追跡までをつなぐ継続的な管理の道筋を整えることを挙げています。栄養の問題が見過ごされやすい背景には、道具や知識の不足だけでなく、同じ身体の変化に対する患者と医療者の意味づけのずれがある——本研究が浮かび上がらせたのは、そうした認識の隔たりそのものです。

著者:Mengdie Liu(Department of Nursing, The Second Affiliated Hospital, School of Nursing, Jiangxi Medical College, Nanchang University)、Zhiteng Xiong(School of Nursing, Jiangxi Medical College, Nanchang University)、Yanjuan Xu(Department of Nursing, The Second Affiliated Hospital of Nanchang University)、Qihui Shen(School of Nursing, Jiangxi Medical College, Nanchang University)、Xinglan Sun(Department of Nursing, The Second Affiliated Hospital of Nanchang University)、Si Liu(Department of Nursing, The Second Affiliated Hospital of Nanchang University)、Xi Chen(Department of Nursing, The Second Affiliated Hospital of Nanchang University)、Xiaoyun Xiong(Department of Nursing, The Second Affiliated Hospital of Nanchang University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mengdie Liu, Zhiteng Xiong, Yanjuan Xu, et al. Patients’ and healthcare professionals’ experiences of malnutrition risk management in heart failure: a qualitative study. Frontiers in Nutrition 2026-09-03. DOI: 10.3389/fnut.2026.1934582. 原著ライセンス:CC BY.