この研究は、タンザニア、南アフリカ、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ササゲ(Vigna unguiculata)は、サハラ以南アフリカを中心とした熱帯・亜熱帯地域で広く栽培される重要な豆類です。乾燥しやすい環境への適応力が高く、生育期間が短く、空気中の窒素を土壌に取り込む働き(窒素固定)を持つため、小規模農家にとって食料と収入の両面を支える作物だと論文は説明しています。一方で、風化の進んだ熱帯土壌では亜鉛(Zn)や鉄(Fe)といった微量栄養素が不足しやすく、これが収量を制限する要因のひとつとして知られています。

こうした不足を補う方法のひとつが「農学的バイオフォーティフィケーション」です。これは微量栄養素を含む肥料を施すことで、作物の生育を改善すると同時に、食べられる部分の栄養素濃度を高めようとする手法を指します。品種改良と違って既存の栽培体系にすぐ導入できる点が利点だと著者らは述べています。

ただし著者らは、これまでの施肥の推奨量が主に「収量を最大にすること」を基準に決められてきた点を課題として挙げています。小規模農家にとっては、生産費や見込まれる収益も判断材料になります。そこで本研究は、モザンビークの熱帯圃場条件下で、亜鉛と鉄の施肥について「収量が最大になる組み合わせ(最大技術効率、MTE)」と「利益が最大になる組み合わせ(最大経済効率、MEE)」がどれだけずれるのかを定量的に示すことを目的としました。

どのように調べたか

圃場試験は2025年の雨季に、モザンビーク・ザンベジア州ナマクーラ郡にあるモザンビーク農業研究所(IIAM)の試験地で行われました。作付け前の土壌分析では、DTPA抽出による有効態亜鉛が0.1 mg kg⁻¹と低く、亜鉛が欠乏している状態だったと報告されています。一方で鉄は31.0 mg kg⁻¹で十分な水準と判断されました。

試験は乱塊法(区画ごとのばらつきを統計的に扱う配置法)に基づく3×4×4の要因配置で、4反復・計192区画が設けられました。検討された3つの要因は、施肥方法(土壌施用、葉面散布、土壌+葉面の併用)、亜鉛の施用量(硫酸亜鉛として0、7.5、15.0、22.5 kg Zn ha⁻¹)、鉄の施用量(Fe–EDTAとして0、5.0、15.0、25.0 kg Fe ha⁻¹)です。葉面散布は開花の始まる時期と満開期にあたる播種後40日と45日に2回に分けて行われました。

解析には応答曲面法(RSM)が用いられました。これは施用量と収量・利益の関係を曲線的なモデルで表し、その頂点にあたる最適な組み合わせを推定する手法です。経済面の評価では、基礎的な生産費に加えて肥料費と施用作業費を積み上げて総生産費を求め、収量に穀粒価格(0.70 USD kg⁻¹)を掛けた粗収益から差し引いて純利益と費用便益比を算出しています。さらに、損益分岐点分析、感度分析、確率的なリスク分析も併せて行われました。

報告された主な結果

収量については、亜鉛と鉄の施用量を変数とする二次の応答曲面モデルが当てはめられ、変動の76.7%を説明したと報告されています(R² = 0.767)。亜鉛・鉄それぞれの一次の項は正、二次の項は負であり、施用量が増えるほど収量は伸びるものの、その伸び幅は次第に小さくなる関係が示されました。加えて、亜鉛と鉄の交互作用の係数が正であったことから、著者らは両者を同時に施用したときに相乗的な効果があったと解釈しています。

収量が最大になる点(MTE)は、亜鉛18.92 kg ha⁻¹、鉄19.17 kg ha⁻¹で、予測収量は1,875.97 kg ha⁻¹と推定されました。一方、純利益が最大になる点(MEE)は、亜鉛16.94 kg ha⁻¹、鉄10.09 kg ha⁻¹で、このとき予測収量は1,838.21 kg ha⁻¹、予測純利益は909.57 USD ha⁻¹と報告されています。

両者を比べると、経済的最適点では亜鉛の施用量が10.48%、鉄が47.39%少なくなります。それでも予測収量の低下は2.01%にとどまり、肥料費は42.50%削減され、純利益はMTEの883.14 USD ha⁻¹からMEEの909.57 USD ha⁻¹へと2.99%増加しました。鉄の削減幅が大きかった理由として著者らは、Fe–EDTAが亜鉛肥料よりかなり高価であったことを挙げています。

施肥方法の比較では、土壌施用と葉面散布を組み合わせた処理が一貫して最も高い予測収量を示しました。投入した養分1 kgあたりの増収量を表す農学的効率も併用区で最も高く、亜鉛では土壌施用13.3、葉面散布15.1、併用22.4 kg穀粒 kg⁻¹、鉄ではそれぞれ6.24、7.34、11.5 kg穀粒 kg⁻¹でした。経済面では、試験で得られた純利益の平均は812.87 USD ha⁻¹(標準偏差86.03)で、評価したすべての処理が損益分岐点を上回り、負の純利益となった組み合わせはなかったと報告されています。感度分析では、純利益に最も大きく影響したのは穀粒価格と収量であり、亜鉛・鉄の肥料費の影響は相対的に小さいという結果が示されました。

この研究が示すこと

この研究が示したのは、「最もよく穫れる施肥量」と「最も儲かる施肥量」は必ずしも一致しない、という点です。とくに高価な肥料については、収量の頂点よりかなり手前で経済的な最適点が訪れます。今回の条件では、鉄の施用量を半分近くまで減らしても収量の目減りはわずかで、費用の削減分が上回りました。

著者らは、収量だけを基準にした施肥の推奨が、費用を負担する農家にとって必ずしも最良の選択にならない可能性を指摘し、農学と経済の両面を組み合わせて最適点を求める意義を示しています。ここで報告された数値はモザンビークの特定の試験地・特定の作期における条件のもとで得られたものであり、土壌の性質や肥料・穀粒の価格が変われば最適点も動きうる、という前提とあわせて読むべき結果です。

著者:Tancredo José Carlos(Department of Crop Science and Horticulture, College of Agriculture, Sokoine University of Agriculture, Morogoro, Tanzania)、Leonel Domingos Moiana(Department of Agriculture and Animal Health, School of Agriculture and Life Sciences, University of South Africa, Roodepoort, South Africa)、Omar Jorge Sabbag(Department of Phytotechnics, Food Technology and Socioeconomics, São Paulo State University (UNESP), Ilha Solteira, Brazil)、Boniface Hussein J. Massawe(Department of Soil and Geological Sciences, College of Agriculture, Sokoine University of Agriculture, Morogoro, Tanzania)、Akwilina Wendelin Mwanri(Department of Human Nutrition and Consumer Sciences, College of Agriculture, Sokoine University of Agriculture, Morogoro, Tanzania)、K. P. Sibuga(Department of Crop Science and Horticulture, College of Agriculture, Sokoine University of Agriculture, Morogoro, Tanzania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tancredo José Carlos, Leonel Domingos Moiana, Omar Jorge Sabbag, et al. Bioeconomic optimization of zinc and iron agronomic biofortification in cowpea (Vigna unguiculata [L.] Walp.) in Mozambique under tropical field conditions. PLoS ONE 2026-09-03. DOI: 10.1371/journal.pone.0357473. 原著ライセンス:CC BY.