冷凍した肉を解凍するとき、肉汁(ドリップ)が流れ出て旨味や食感が損なわれることがあります。これは解凍中に肉の中の氷結晶が水に戻る過程で、細胞内の水分がうまく保持できずに外へ逃げてしまうことが一因とされています。今回紹介する研究は、この解凍時の水分の逃げをどうすれば抑えられるかをテーマに、羊肉を対象として「静磁場」を使った解凍方法の効果を調べたものです。
研究の方法
研究チームは、羊肉の長背最長筋(ロース部分の筋肉)を実験材料として使用しました。まず−18℃で24時間かけて通常の冷凍を行った後、磁気と電気を組み合わせた恒温装置の中で、4℃の環境下、0、1、2、3、4、5、6mTという7段階の強さの静磁場をかけながら解凍しました。そのうえで、保水性、脂質の酸化、総揮発性塩基窒素(TVB-N、肉の鮮度や腐敗の目安となる指標)、水分の分布、筋原線維タンパク質(筋肉の構造を支えるタンパク質)の構造などを総合的に分析しています。
わかったこと
0mT(静磁場をかけない対照群)と比較して、2mTの静磁場処理では解凍にかかる時間が28.96%短縮されたと報告されています。また、解凍によるロスが55.32%、遠心分離によるロスが20.71%、加熱調理によるロスが21.55%、それぞれ有意に減少したとされています(統計学的に意味のある差であることを示すP<0.05という基準を満たしています)。
低磁場核磁気共鳴(NMR)と磁気共鳴画像(MRI)による分析では、2mTの静磁場処理が解凍中の水分の移動を効果的に抑え、動きにくい水分(不易水)の保持を最大化し、保水性を高めたことが示されています。さらに、この解凍処理によって脂質酸化の指標であるTBARS値と、鮮度指標であるTVB-N値がいずれも有意に低下し、脂質酸化とタンパク質の分解が抑えられたことが示唆されています。
加えて、筋原線維タンパク質については、総スルフヒドリル基(タンパク質の酸化状態を示す指標の一つ)の含量が増加する一方で、カルボニル含量(酸化が進むと増える指標)と表面疎水性が低下し、タンパク質の酸化や変性が弱まったことが報告されています。タンパク質の二次構造・三次構造の分析からも、2mTの静磁場がタンパク質構造の安定化に寄与したとされています。
この研究の位置づけ
この研究は、羊肉という一つの食材・一つの部位(長背最長筋)を対象に、実験室的な条件下で静磁場解凍の効果を検証したものであり、この結果がすべての食肉や実際の流通・調理環境にそのまま当てはまるかどうかは、この要旨の範囲だけでは判断できません。研究チームは、この成果が羊肉の新しい解凍技術の開発に向けた理論的根拠と技術的裏付けを提供するものだとしています。一つの研究であり、これによって結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
なお、この研究には中国・山東省農業科学院農産物加工・栄養研究所(新食品資源加工重点実験室)や安徽科技学院などに所属する研究者らが参加しており、日本国内の研究機関に所属する著者は含まれていません。
まとめ
今回紹介した研究では、羊肉の解凍時に2mTという特定の強さの静磁場を利用することで、解凍時間の短縮や各種ロスの減少、保水性の向上、脂質・タンパク質酸化の抑制、筋原線維タンパク質構造の安定化が確認されたと報告されています。冷凍食肉の品質保持という身近なテーマに関わる基礎研究として、今後の技術開発の参考になる知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:異なる強度の静磁場が解凍羊肉の品質、水分分布、筋原線維タンパク質に及ぼす影響(DOAJ(オープンアクセス学術誌ディレクトリ)・2026年09月掲載予定)