この研究は、ドイツ、オーストリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Poultry science and management.

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

サルモネラ症は世界で最も多い食中毒のひとつで、著者らによれば欧州連合では2024年に79,703件の感染が確認され、16,337件の入院と116人の死亡が報告されています。鶏肉や卵は人への主要な感染源のひとつであり、ブロイラー(肉用鶏)の生産段階でサルモネラを抑えることが公衆衛生上の課題とされています。

ブロイラー農場では、鶏の群れを出荷してから次の群れを入れるまでの空き期間に、鶏舎の洗浄と消毒(C&D)を行います。これは前の群れから次の群れへ菌を持ち越さないための重要な工程です。しかし研究チームは、C&Dを行ってもサルモネラが残る例が報告されてきたことを指摘しています。とくにS. Infantis(インファンティス)とS. Java(ジャワ)という血清型は鶏舎環境から除去しにくく、農場に長く居座りやすいと述べられています。なお欧州とドイツの法規制がブロイラーで対象としているのはS. EnteritidisとS. Typhimuriumの2つの血清型に限られ、それ以外の血清型には法的な防除義務がないという背景も説明されています。

そこで本研究は、過去にサルモネラが検出された農場を対象に、C&D後にどこにどれだけ菌が残っているのかを調べ、衛生管理の弱点と再汚染の原因になりうる場所を見つけることを目的としました。

どのように調べたか

調査したのは、ドイツ北西部にある慣行飼育のブロイラー農場21戸です。いずれも直前の群れでサルモネラが検出された農場で、1棟あたり2万〜4万羽を飼育していました。2013年から2019年にかけて、C&Dが完了した空き期間に獣医師の協力のもとで訪問し、合計1,200点の拭き取り検体を採取しています。1回だけ調査した農場が12戸、最も多い農場では6回調査が行われました。

採取方法は2種類です。床については、使い捨てカバーの上からブーツ型のスワブ(拭き取り材)を履き、鶏舎を対角線状に横断しながら100歩以上すり足で歩いて広い面積を拭き取りました。それ以外の場所は、懐中電灯で目視点検したうえで、汚れや有機物、ほこりが残っている「気になる箇所」を布状のスワブで拭き取っています。標準化された採取手順にはあえて従わず、洗浄が行き届きにくい弱点を探すことに重点を置いた方式です。検体は前室、給水ライン、給餌配管、床のひび割れ、死体回収容器、排水口、噴霧冷却装置、電気設備、換気設備、車両、通路、周辺環境など16の採取地点に分類され、鶏舎の内と外も区別されました。

さらに各検体は、鶏との距離の近さと感染が伝わる可能性に応じて4つの「リスクグループ」に分けられました。グループ1は鶏が直接触れられるすぐそばの環境、グループ2は前室など建物内だが飼育室ではない場所、グループ3は建物外だが鶏舎へ向かう通路上、グループ4は建物の外で人が接触することがほとんど考えられない場所です。検査はまずリアルタイムPCR(遺伝子を増幅して菌の有無を調べる方法)で行い、陽性だった検体について培養と血清型の同定を進めました。

報告された主な結果

1,200点のうち27.6%にあたる331点がサルモネラ陽性でした。C&D後であるにもかかわらず、およそ4分の1以上の検体から菌が見つかったことになります。血清型としてはS. Infantisが331点中162点(48.9%)、S. Javaが52点(15.7%)と多く、ほかにS. Livingstone、S. Anatum、S. Typhimuriumも検出されました。S. Infantisは21戸中11戸、S. Javaは9戸で確認されています。

目を引くのは、鶏舎の内側より外側のほうが陽性率が高かった点です。鶏舎内部の検体は887点中223点(25.1%)が陽性だったのに対し、周辺の屋外検体は313点中108点(34.5%)が陽性で、この差は統計的に有意でした。21戸のうち6戸では屋外でのみサルモネラが検出され、逆に周辺環境から一切検出されなかったのは2戸だけでした。リスクグループ別に見ると、最も陽性割合が高かったのは人の接触がほとんど想定されないはずのグループ4(56点中25点、44.6%)で、最も低かったのは建物内の前室などにあたるグループ2(303点中66点、21.8%)でした。

場所ごとの違いも報告されています。噴霧冷却装置は10点中7点(70%)と最も陽性割合が高く、屋外の開放水域が20点中11点(55%)、周辺環境が52点中21点(40.4%)、通路が80点中32点(40.0%)と続きました。低かったのは天井(31点中5点、16.1%)や前室(108点中17点、16.4%)です。換気設備では、屋外側の57点中19点(33.3%)に対し屋内側は134点中28点(20.9%)と、外側のほうが高い結果でした。また季節との関連も有意で、秋の陽性割合が535点中218点(40.8%)と最も高く、冬は255点中31点(12.2%)でした。

なお著者らは、この調査が標準化された採取手順に従っていないため一般的な結論を導きにくいこと、噴霧冷却装置を備えた農場が少ないため解釈には注意が必要なこと、PCR陽性331点のうち109点は血清型が特定されておらず、その大半は検体数の多い少数の農場に由来することを述べています。また本研究はドイツのブロイラー産業全体の真の汚染率を示すものではないとしています。

この報告が示すこと

この研究が伝えるのは、洗浄と消毒を終えた鶏舎でもサルモネラは珍しくない頻度で残り、しかもその舞台は鶏舎の内部だけではないということです。噴霧冷却装置や排水口、床のひび割れといった水分や汚れがたまりやすい箇所、そして換気設備の屋外側や敷地内の通路・周辺環境など、日常の清掃で見落とされがちな場所が汚染源になりうると著者らは指摘しています。

著者らは、鶏舎の内外いずれの環境も新しく導入される群れへの感染源になりうるとしたうえで、とくにS. InfantisやS. Javaのような残存しやすい血清型に対しては、C&D手順を厳格に実施することが欠かせないと述べています。採取場所をリスクグループに分ける手法については、重要管理点や弱点を見つける道具として役立ちうるものの、批判的な検討が必要だという評価も添えられています。鶏舎の中をきれいにするだけでは足りず、その周りまで含めて衛生管理の範囲を考える必要がある——本研究の結果は、そうした視点を具体的な数字とともに示しています。

著者:Lars Pöppel(Institute for Animal Hygiene, Animal Welfare and Farm Animal Behavior, University of Veterinary Medicine Hannover, Foundation, Bischofsholer Damm 15, 30173, Hannover, Germany)、Ali Antakli(Elanco Deutschland GmbH, Rathausplatz 12, 61348, Bad Homburg, Germany)、Doris Müller-Doblies(Elanco Austria GmbH, Quartier Belvedere Central, Gertrude Froehlich Sandner Str. 3, Vienna, 1100, Austria)、Dmytro Radko(Elanco Deutschland GmbH, Rathausplatz 12, 61348, Bad Homburg, Germany)、Nicole Kemper(Institute for Animal Hygiene, Animal Welfare and Farm Animal Behavior, University of Veterinary Medicine Hannover, Foundation, Bischofsholer Damm 15, 30173, Hannover, Germany)、Pia Münster(Department of Livestock Farming and Animal Health Management, Osnabrueck University of Applied Sciences, Emsweg 3, 49090, Osnabrück, Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lars Pöppel, Ali Antakli, Doris Müller-Doblies, et al. Assessment of residual Salmonella contamination in German broiler farms and their surroundings after cleaning and disinfection. Poultry science and management. 2026-09-14. DOI: 10.1186/s44364-026-00042-5. 原著ライセンス:CC BY.