著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。

掲載誌:Sustainable Futures

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

農業や食品の分野では、物質の循環を閉じる、資源を回収して再利用する、管理の行き届いた生産システムを導入する、といった研究開発や技術革新の取り組みが増えています。こうした考え方は「循環型経済」と呼ばれ、資源をできるだけ無駄にしない社会の仕組みを目指すものです。

しかし著者らによると、新しく生まれつつある循環型の農業・食品システムの多くは、新技術が育つための足場となる小さな市場(イノベーションのニッチ)を確立できず、規模の拡大、他地域への展開、別の場所での再現といった見通しを立てにくい状況にあります。研究チームは、こうした個々の技術を超えて仕組み全体に関わる障壁をよりよく理解することを目的としました。

何を調べたか

著者らは分析の枠組みとして「ミッション志向型イノベーションシステム」という視点を採用しました。これは、社会的な大きな目標(ミッション)の達成に向けて、技術だけでなく、関わる人や組織、資金、制度などがどのように連動しているかを捉えようとする考え方です。

この視点から、研究チームはドイツで生まれつつある3つの循環型農業・食品システムを取り上げ、それぞれを比較する事例研究を行いました。なお、ここで紹介する内容は論文の抄録に基づいています。

主な結果

論文によると、3つの事例は技術的なアプローチが異なっていたにもかかわらず、共通したイノベーションの障壁を抱えていました。

報告された障壁は主に三つです。一つ目は、すでに確立している従来の農業・食品の生産方法と比べて、経済的な競争力が不足していることです。二つ目は、事業化のための資金を得る手段が限られていることです。三つ目は、補助金の要件や表示制度などに見られるように、政策の枠組みが従来の生産方法に有利な形になっていることです。

研究が示すこと

著者らは、これらの結果から、農業・食品分野で新しい技術が育つ場を後押しするうえで、ミッション志向型の政策が重要であると指摘しています。そのためには、一つの分野に閉じない分野横断的な政策の調整と、規制の見直しが求められるとしています。

技術の違いを越えて同じような壁が見られたという報告は、循環型の取り組みが広がるかどうかが、技術そのものだけでなく、経済性や資金、制度のあり方にも左右されることを示しています。

原著論文の著者・所属:Victoria Dietze(Humboldt-Universität Zu Berlin, Thaer Institute of Agricultural and Horticultural Sciences, Agricultural and Food Policy Group, Philippstraße 13, Berlin, 10115, Germany; Justus Liebig University Giessen, Institute for Sociology, Center for Sustainable Food Systems, Karl-Glöckner-Straße 21E, Giessen, 35394, Germany)、Peter Henning Feindt(Humboldt-Universität Zu Berlin, Thaer Institute of Agricultural and Horticultural Sciences, Agricultural and Food Policy Group, Philippstraße 13, Berlin, 10115, Germany)、Heike Hess(Universität Heidelberg, Max-Weber-Institute of Sociology, Centre for Social Investment (CSI), Voßstraße 2, Heidelberg, 69115, Germany)、Volkmar Keuter(IWW Institut für Wasserforschung gGmbH, Moritzstr. 26, Mülheim an der Ruhr, 45476, Germany)、Georg Mildenberger(Universität Heidelberg, Max-Weber-Institute of Sociology, Centre for Social Investment (CSI), Voßstraße 2, Heidelberg, 69115, Germany)、Sandra Schwindenhammer(Justus Liebig University Giessen, Institute for Sociology, Center for Sustainable Food Systems, Karl-Glöckner-Straße 21E, Giessen, 35394, Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Victoria Dietze, Peter Henning Feindt, Heike Hess, et al. Achieving the mission of a circular economy in the agri-food sector? A comparative case study of three circular innovations in Germany. Sustainable Futures 2026-09-16. DOI: 10.1016/j.sftr.2026.102154. 原著ライセンス:CC BY.