この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food chemistry: X

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

ニンニクは料理に深みを与える食材として広く使われていますが、その強い刺激的なにおいは扱いにくさの原因にもなります。研究チームによれば、このにおいは、ニンニクの組織が壊れたときに酵素のはたらきで生じるアリシンや、そこから変化してできる硫黄を含む揮発性の成分(空気中に飛び散りやすい成分)に主に由来します。とりわけ二硫化ジアリル(DADS)は、ニンニク特有のツンとしたにおいの主要な担い手とされています。

これまでにも、環状のデンプン由来物質で香り成分を包み込む方法や、電子レンジ処理などによってにおいを弱める試みが報告されてきました。しかし論文は、これらの方法は工程が複雑だったり費用がかかったり、ニンニク本来の風味まで変えてしまったりする場合があると指摘しています。そこで著者らは、日常的な飲み物であるお茶に注目しました。お茶に含まれる茶ポリフェノールは化学的な反応性が高く、硫黄を含むにおい成分と単なる物理的な「覆い隠し」ではない形で関わりうることが先行研究で示されてきたためです。ただし、それがニンニクの硫黄系成分の内訳をどう変えるのか、そして実際に人が感じるにおいの変化につながるのかは明らかでありませんでした。本研究は、機器による揮発性成分の分析と官能評価(人がにおいを評価する試験)を組み合わせ、お茶とその有効成分がニンニク臭をどう変えるのかを調べることを目的としています。

何を、どのように調べたか

著者らは、紫皮ニンニクと、緑茶(蒙頂甘露一級)・黒茶(雅安蔵茶二級)を材料に用いました。茶葉を粉末にして熱水で抽出した「茶の水抽出液」をつくり、ニンニクのペーストを、何も処理しない場合、蒸留水で処理した場合、茶抽出液で処理した場合の三通りで比較しています。においの評価は、嗅覚に問題のない十名が参加し、評価者と試料の順番はくじで無作為に決められました。個人を特定できる情報は集めず、匿名で記録・解析されたと報告されています。

揮発性成分は、ヘッドスペース固相マイクロ抽出とガスクロマトグラフ質量分析(HS-SPME-GC–MS)という手法で分析されました。これは試料の上の空間に漂う香り成分を集め、成分を分離して種類と量を調べる方法です。さらに、代表的なにおい成分であるDADSについては高速液体クロマトグラフィーで濃度を測り、処理前後でどれだけ減ったかを「除去率」として算出しています。

お茶のどの成分が効いているのかを絞り込むため、著者らは段階的な手順を踏みました。まず、茶多糖類と茶サポニンを取り除いた抽出液を用意して比較し、次に茶の水抽出液を有機溶媒で段階的に分け、得られた各画分について茶ポリフェノール、カフェイン、遊離アミノ酸、テアフラビンなどの含量とDADS除去率を測定しました。そのうえで重回帰分析により、どの成分が除去率と結びついているかを統計的に検討しています。

報告された主な結果

官能評価では、点数が高いほどニンニク臭が弱く受け入れやすいという基準が用いられました。未処理のニンニクペーストは1.68と最も低く、蒸留水処理では5.71、緑茶抽出液処理では8.41と最も高い評点が報告されています。緑茶で処理した試料にはほのかな茶の香りがあり、全体としてにおいが受け入れやすくなったと述べられています。

GC–MS分析では、三つの試料から合わせて36の化合物が同定されました。未処理のニンニクペーストに含まれる硫黄含有揮発性成分の総量は1955.58 μg/gで、蒸留水処理では19.99%、茶抽出液処理では37.10%減少したと報告されています。蒸留水そのものにもにおい成分を減らす働きがありましたが、茶抽出液のほうが減少の程度は大きく、この点は官能評価の結果と一致していました。

においへの寄与の大きさを見る指標として、成分の濃度をそのにおいの感知しきい値で割った「香気活性値(OAV)」が用いられました。DADSのOAVはジアリルスルフィドやジアリルトリスルフィドより大きく、ツンとしたにおいへの寄与が大きいことが示されました。茶抽出液で処理すると、DADSのOAVは未処理の約半分になったと報告されています。また、ニンニクとお茶を合わせた試料からは126の香り関連成分が検出され、その多くが青葉様、果実様、甘い、花様といった好ましい香りの記述に結びついていました。著者らは、においの改善は不快な硫黄臭の減少と、茶由来の香り成分による覆い隠し・調整の両方によるものかもしれないと述べています。

成分の絞り込みでは、茶多糖類や茶サポニンを減らしてもDADS除去率に統計的に意味のある変化は生じませんでした。一方、画分ごとの分析と重回帰分析では、カフェインや遊離アミノ酸、茶色素といった変数のうち、茶ポリフェノール含量だけが除去率に対して有意な効果を示し、その関係は正の向きでした。変数を絞った単純な回帰モデルでも、茶ポリフェノール含量だけで除去率のばらつきの57.5%を説明できたと報告されています。さらに、精製した茶ポリフェノール溶液を分けて調べたところ、カテキンが検出されない画分でもわずかな除去効果が見られた一方、カテキン量が増えると除去率も明らかに大きくなりました。なお全体として、黒茶のDADS除去能力は緑茶より弱かったと述べられています。

この研究が示すこと

この研究は、お茶という身近な食材を使って、ニンニク特有のにおいを化学的な変化として捉え直し、それが人の感じ方の違いにもつながることを一続きに示しました。硫黄を含む成分の減少と、茶由来の香りが加わることの両方が関わっている可能性が示され、その中心的な役割を担う成分として茶ポリフェノールが特定されています。食材そのものに由来する成分を手がかりに、風味をどう設計しうるかを考えるうえでの、一つの具体的な手がかりを与える報告といえます。

著者:Chen Y(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)、Xu Y(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)、Zhang H(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)、Huang H(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)、Xue R(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)、Yuan X(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)、Guo X(College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China.)、Li P(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, Sichuan, PR China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chen Y, Xu Y, Zhang H, et al. Sensory-guided Design of Garlic Using tea and Identification of key active components. Food chemistry: X 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104379. 原著ライセンス:CC BY.