著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
牛は出荷の際にトラックなどで長時間運ばれることがあり、その間に受けるストレスが肉の質に影響する可能性があります。研究チームは、輸送ストレスが牛肉の品質にどのような影響を与えるのか、またその背景でどのような仕組みが働いているのかを明らかにすることを目的としました。
何を調べたか
研究チームは、体重がほぼそろったホルスタイン種の去勢牛12頭を、15時間輸送するグループと、輸送しない(0時間)グループの二つに分けました。そのうえで、両グループの牛肉について、肉質、筋肉を構成する細い繊維(筋原線維)の構造、風味に関わる成分を比較しました。
さらに、腰の部分にあるロース部位の筋肉(腰最長筋)を対象に、どの遺伝子がどの程度働いているか(トランスクリプトーム)と、どのタンパク質がどれだけ存在するか(プロテオーム)を網羅的に調べ、両方の結果を組み合わせて分析しました。これにより、輸送ストレスに関係する遺伝子やタンパク質を特定しようとしました。
主な結果
論文によると、15時間輸送したグループの牛肉は、輸送しなかったグループに比べて、肉を切るのに必要な力(硬さの指標となるせん断力)、水分が失われる割合、肉から流れ出る肉汁の量(ドリップロス)がいずれも統計的に有意に高くなっていました。また、霜降りの度合いを示す等級は、輸送したグループの方が有意に低い結果でした。
電子顕微鏡で筋肉を観察したところ、筋肉の収縮の単位である「サルコメア」の長さが、輸送によって有意に短くなっていたことも報告されています。さらに著者らは、長距離輸送が肉の風味にも悪影響を及ぼすとしています。
遺伝子とタンパク質の解析では、輸送の有無で差が見られたもののうち、6つについて遺伝子の働き(mRNA)とタンパク質の量が同じ方向に変化していました。著者らは、細胞内の鉄が関わって脂質の酸化を引き起こす「フェロトーシス」と呼ばれる経路を通じて、輸送ストレスが牛肉の品質や風味に少なくとも部分的に影響している可能性があると考えています。
また、ストレスへの反応に関わる遺伝子・タンパク質(HMOX1とBDH1)の変化が、肉質に関わる遺伝子・タンパク質(COL1A1、FMOD、MYL3)の変化と連動して見られました。著者らは、これらの分子レベルの変化が組み合わさって品質の低下につながっている可能性があると述べています。
研究の意味
この研究は、長時間の輸送が牛肉の硬さや保水性、霜降り、風味といった品質の低下と結びついていること、そしてその背景に関わる可能性のある遺伝子やタンパク質の変化を示しました。輸送ストレスと牛肉の品質の関係を、肉の性質と分子の両面から理解する手がかりを与える報告といえます。
原著論文の著者・所属:雷赵民(College of Animal Science and Technology Gansu Agricultural University Lanzhou China)、Siyu Cheng(China Resources Ng Fung, Ltd Shenzhen China)、Ruixin Yang(College of Animal Science and Technology Gansu Agricultural University Lanzhou China)、Jinping Shi(College of Animal Science and Technology Gansu Agricultural University Lanzhou China)、Zemin Li(College of Animal Science and Technology Gansu Agricultural University Lanzhou China)、Wangjing Liu(College of Animal Science and Technology Gansu Agricultural University Lanzhou China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):雷赵民, Siyu Cheng, Ruixin Yang, et al. Integrating Transcriptomic and Proteome Analysis to Understand Muscle Qualities and Related Regulatory Factors of Holstein Beef Under Transportation Stress. Food Science & Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.1002/fsn3.72415. 原著ライセンス:CC BY.