著者の所属・活動拠点の国は、タイです。

掲載誌:Journal of Agriculture and Food Research

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的

マリネは、酸や塩などを含む液に食材を漬け込む加工法で、日持ちをよくし、味や食感を整える目的で使われてきました。ナイルティラピアは養殖で広く食べられている魚で、食べやすくするためにマリネされることがあります。マリネした製品では、やわらかさが消費者に受け入れられるかどうかを左右する重要な特徴とされています。一方で、漬け込みすぎると筋肉のタンパク質が過度に溶け出し、極端にやわらかい食感になることがあります。

これまで食感や肉汁の保持は、重さの減り方や機械による硬さの測定、試食による評価などで調べられてきました。しかし著者らは、こうした方法は最終的な結果を示すだけで、なぜその変化が起きるのかという仕組みの手がかりや、品質を予測するための目印(バイオマーカー)は得られないと指摘しています。そこで研究チームは、組織に含まれる多数のタンパク質を一度に調べる「プロテオミクス」という手法を用い、マリネしたティラピアの歩留まり(加工後に残る量)と食感に関わるタンパク質の候補を探しました。

何をどのように調べたか

研究チームは、タイの3か所の養殖場から入手したティラピアの切り身を、塩(塩化ナトリウム)6%と酢酸1%を含む液に冷蔵庫(4℃)で漬け込み、0時間から48時間までの複数の時点で取り出しました。それぞれについて、pHや酸度、肉が水分を抱え込む力(保水性)、放置したときに出る汁の量(ドリップロス)、加熱による重さの減り(加熱損失)、硬さや弾力などの食感を測りました。さらに50人の一般の参加者が、加熱した身の味、やわらかさ、ジューシーさ、全体的な好ましさを9段階で評価しました。

こうした測定から最も条件のよい漬け込み時間を選び、その時点のマリネした身と、漬け込む前の身とで、含まれるタンパク質の種類と量を比較しました。用いたのは、試料に目印となる物質を付けずに、質量分析という方法でタンパク質を見分けて量を比べる「ラベルフリー・プロテオミクス」です。各グループについて、別々の魚から得た3つの試料が分析されました。

主な結果

漬け込みが進むにつれてpHは6.42から48時間後には5.15まで下がりました。保水性は86.03%から上がり、36時間で最も高い92.56%に達しました。加熱損失は36時間で15.43%から8.46%まで減り、ドリップロスも36〜48時間で最も低くなりました。硬さや噛みごたえは漬け込み時間とともに下がりました。試食では、全体的な好ましさが36時間で最も高く評価された一方、48時間ではやわらかさと全体の評価がともに下がりました。これらの結果から、研究チームは36時間を歩留まりと食感の両面で最適な条件と判断しました。

タンパク質の分析では、全体で781種類のタンパク質が確認されました。両方のグループで安定して検出された212種類を比べたところ、50種類で量に差が見られ、マリネ後に多くなったものが23種類、少なくなったものが27種類でした。その多くは筋肉の構造をつくるタンパク質や、代謝に関わる酵素でした。たとえば、筋肉の構造を支えるアクチンやミオシン、タイチンに関連するタンパク質はマリネ後に少なくなっており、著者らは塩と酸による分解を示すものと考えています。関連する代謝経路を調べると、食感の変化に関わる10の経路が見つかり、中でも糖を分解してエネルギーをつくる解糖系とその逆向きの糖新生の経路が最も大きな影響を持つとされました。

さらにタンパク質どうしのつながりを分析した結果、ACTA1(アクチンの一種)、PYGMA、RPSA、ACTN3、VCL、HSPA8、RPS7といった、ほかの多くのタンパク質と密接に結びついたタンパク質が、生の身と食感のよいマリネした身を見分けるための有望なバイオマーカー候補として挙げられました。

この研究が示すこと

この研究は、塩と酢酸によるマリネでティラピアの身の保水性や食感が変わるとき、筋肉の構造タンパク質やエネルギー代謝に関わる酵素の量にも変化が見られることを示しました。著者らは、今回の分析では塩や酸によってタンパク質の溶けやすさが変わり、抽出されやすさに差が出た可能性を否定できないため、結果は抽出できたタンパク質の変化として解釈すべきだと述べています。また、探索的な研究として、見つかったタンパク質はあくまで候補として扱われています。

そのうえで本研究は、マリネによる食感の変化を、仕上がりの測定だけでなくタンパク質の変化という分子のレベルから捉える手がかりを示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Sylvia Indriani(School of Animal Technology and Innovation, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand; School of Physical and Chemical Sciences, University of Canterbury, Christchurch, 8140, New Zealand)、Nattanan Srisakultiew(School of Animal Technology and Innovation, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand)、Passakorn Kingwascharapong(Department of Fishery Products, Faculty of Fisheries, Kasetsart University, Bangkok, 10900, Thailand)、Samart Sai-ut(Department of Food Science, Faculty of Science, Burapha University, Chonburi, 20131, Thailand)、Soottawat Benjakul(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation, Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai, 90110, Thailand)、Jaksuma Pongsetkul(School of Animal Technology and Innovation, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand; Corresponding author.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sylvia Indriani, Nattanan Srisakultiew, Passakorn Kingwascharapong, et al. Potential biomarker discovery for texture and yield quality changes in marinated Nile tilapia (. Journal of Agriculture and Food Research 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.jafr.2026.103295. 原著ライセンス:CC BY.