この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
収穫後の果実や野菜が傷んで廃棄される量は世界的に大きな問題となっています。その大きな要因のひとつが、植物ホルモンの一種である「エチレン」です。エチレンは気体として果実から放出され、熟成や老化を進める働きを持ちます。トマトのように収穫後も熟し続ける果実(クリマクテリック型と呼ばれます)では、エチレンがたまることで軟化や品質低下が加速します。
研究チームは、この問題に対して、使用済みの茶葉を原料としたバイオ炭(有機物を酸素の少ない条件で加熱して作る炭素に富んだ材料)を、エチレンを吸着する材料として使えないかと考えました。バイオ炭は細かな孔が多い多孔質の構造を持ち、表面に水酸基やカルボキシル基などの官能基があるため、気体との相互作用が期待されます。食品加工の廃棄物を有効活用するという点で、循環型経済の考え方にも沿った発想です。
論文によれば、著者らは三つの問いを立てました。セルロース製の小袋に入れた茶殻由来バイオ炭が保存中のエチレン蓄積を抑えられるか、その効果が炭の量によって変わるか、そしてエチレンの減少が微生物学的・物理化学的・抗酸化的な品質の保持につながるか、という三点です。
調べた方法と主な結果
著者らは、完熟した赤い状態のトマト1kgを容量5.6dm³の密閉ガラス容器に入れ、換気をしない条件で保存しました。そこへ量の異なるバイオ炭をセルロースの小袋に詰めて同封し、6日後・12日後・18日後にエチレン濃度と各種の品質指標を測定しています。バイオ炭は小袋に入っているため、トマトに直接触れることはありません。
エチレン濃度は、対照区(バイオ炭なし)では6日後の71.30ppmから18日後には101.00ppmへと増加しました。これに対しバイオ炭を入れた区では蓄積が抑えられ、その度合いはおおむね炭の量が多いほど大きくなりました。最も効果が大きかったのは10gの区で、6日・12日・18日後にそれぞれ42.00、57.00、60.30ppmとなり、対照区より41.10%、37.80%、40.30%低い値でした。なお論文は、この実験が密閉容器での測定であるため、換気のある商業的な保存条件よりも濃度が高めに出ている可能性があると注意を促しています。
微生物の数にも差が現れました。好気性中温性微生物は、対照区で6日後の約3.20 log₁₀ CFU/gから18日後には約7.70 log₁₀ CFU/gへ増えたのに対し、7.5gと10gの区では最終日でも約3.00 log₁₀ CFU/g未満にとどまりました。酵母・カビについても同様の傾向がみられています。ただし著者らは、これは増殖が抑えられたということであって、微生物が完全に死滅したわけではないと述べています。
果実の硬さ(果肉硬度)は、保存前の平均1.87kgfから、対照区では18日後に1.00kgfまで、約46.4%低下しました。一方、5g・7.5g・10gの区は18日後も1.77〜1.80kgfと初期値に近い値を保ちました。滴定酸度も同様で、保存前の0.73%に対し18日後の対照区は0.41%まで下がりましたが、10gの区では0.68%が保たれています。他方、pHと可溶性固形分(糖度)、乾物含量については、対照区とバイオ炭区の間に統計的に意味のある差は認められませんでした。
抗酸化に関わる指標では、総ポリフェノール量が18日後に10gの区で最も高く(53.46 mg GAE/100g FW)、対照区や1〜3gの区で低い値となりました。ABTS法による抗酸化活性は保存中に低下しましたが、18日後の値は7.5gで484.72、10gで492.50µmol TE/100g FWと、対照区の330.19µmol TE/100g FWを上回りました。DPPH法の結果は投与量との対応が他の指標ほど明確ではなく、区ごとのばらつきが大きかったと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、バイオ炭は小袋の中にあってトマトに触れていないことから、観察された効果はバイオ炭が果実に直接作用したというより、保存環境の空気の組成を変えたことによる間接的な結果として解釈すべきだとしています。エチレンの蓄積が抑えられることで熟成と老化の進行が緩やかになり、それが硬さや酸度の保持、さらには組織の軟化に伴う微生物の繁殖しやすさの低下につながった、という筋道です。
捨てられるはずだった茶殻という身近な廃棄物が、簡素な小袋に詰めるだけで収穫後のトマトの品質保持に寄与しうることを、この研究は一連の測定によって示しました。著者ら自身も、商業的な保存条件での検証はこれからの課題だと述べています。食品廃棄物の活用と収穫後の損失の削減という二つの課題を同時に扱う視点を示した点に、この報告の意義があります。
著者:Saletnik A(Department of Bioenergetics, Food Analysis and Microbiology, Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, 2D Ćwiklińskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland.)、Grabek-Lejko D(Department of Bioenergetics, Food Analysis and Microbiology, Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, 2D Ćwiklińskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland.)、Puchalski C(Department of Bioenergetics, Food Analysis and Microbiology, Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, 2D Ćwiklińskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland.)、Saletnik B(Department of Bioenergetics, Food Analysis and Microbiology, Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, 2D Ćwiklińskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saletnik A, Grabek-Lejko D, Puchalski C, et al. Improving the Postharvest Storage and Quality of Tomatoes (<i>Solanum lycopersicum</i> L.) Using Biochar Derived from Spent Tea Leaves. Molecules (Basel, Switzerland) 2026-08-26. DOI: 10.3390/molecules31172982. 原著ライセンス:CC BY.