著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
豆腐や豆乳など大豆食品は中国の食卓に古くから根付いていますが、実際にどれくらいの量の大豆イソフラボンを摂取できているのかは、これまであまり詳しく調べられてきませんでした。今回、中国の研究チームが14歳以上の女性を対象に、全国規模のデータを使って大豆イソフラボンの摂取量を推計し、国が定める摂取目安と照らし合わせた研究をニュートリエンツ誌に発表しました。
大豆イソフラボンは、大豆などマメ科植物がつくるポリフェノール系の成分で、大豆の種子の中では主に子葉と胚軸に多く含まれ、種皮にはごくわずかしか存在しません。これまでに12種類の異なる化合物が確認されており、そのうち約97〜98%は糖と結合した「配糖体」の形で存在し、より活性が強いとされる遊離型(アグリコン)は残り2〜3%にとどまります。分子構造がヒトのエストロゲンの一種である17β-エストラジオールに似ているため、体内でエストロゲン受容体に結合し、状況に応じて弱い作用や抑制的な作用を示す「選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)」的な働きをする可能性が指摘されており、更年期症状の緩和や骨密度の維持などとの関連が研究されてきた成分です。
どうやって摂取量を調べたのか
研究チームは、2017〜2020年に実施された中国全国食品摂取調査(CFCS)のデータを土台にしました。この調査は中国東部・中部・西部・東北部の23の省級行政区にまたがる126地点で、多段階の層化クラスターサンプリングにより実施されたもので、各調査地点で街区・郷鎮を選び、そこからさらに世帯を無作為抽出するという手順を踏んでいます。今回の分析では、男性、14歳未満の女性、妊娠・授乳中の女性、エネルギー摂取量が極端(1日4000kcal超または600kcal未満)だった人などを除外し、最終的に20,676人の女性のデータが解析対象となりました。
各食品に含まれる大豆イソフラボンの量は、中国食品成分表(第6版標準版、326食品分の収載データ)を参照し、これに個人ごとの食品摂取量(24時間思い出し法で調査)を掛け合わせて算出されています。表に直接データがない食品については、植物分類や成分組成が近い食品の値を代用しており、例えば一部の唐辛子類はピーマンと同じ科・属であることから、ピーマンの値を援用したと説明されています。こうした代用値は全体の推計に占める割合は5%未満だったとされています。また、年齢・性別・活動量などから算出される推定エネルギー必要量をもとに、18歳男性・軽活動・2150kcal/日を基準とする「標準人日」あたりの摂取量に換算し、異なる年齢層や地域間で比較できるようにしています。閉経状況については、月経歴の直接データがなかったため、45歳未満を閉経前、45歳以上を閉経周辺期・閉経後として分類したとされています。
浮かび上がった摂取不足の実態
解析の結果、標準化した大豆イソフラボン摂取量は平均14.77mg/標準人日、中央値は5.32mg/標準人日(四分位範囲0.29〜19.10mg)と、分布は少数の高摂取者に引っ張られる形で大きく右に偏っていました。属性別では、65歳以上の女性(平均16.20mg/日)、農村部居住者(16.38mg/日)、軽い身体活動レベルの人(15.17mg/日)、年間世帯収入10万元超の層(15.51mg/日)、肉体労働者(16.11mg/日)で平均摂取量が高く、地域別では中部地方が最も高い21.01mg/日を記録した一方、西部地方が最も低かったとされています。学歴による差は統計的に有意ではありませんでした。
摂取源としては、乾燥豆類・豆製品が全体の約82%を占め圧倒的な存在で、なかでも豆腐およびその加工品が最大の割合(豆類全体の67.51%)を占め、次いで大豆そのもの(28.60%)が続きました。野菜類が13.01%で2番目に多い供給源でした。
最も注目される結果は、対象者の96%以上が、中国の食事摂取基準(2023年版)で定められた「特定提案量」(閉経前女性55mg/日、閉経周辺期・閉経後女性75mg/日)を満たしていなかった点です。目標を達成できていたのは閉経前女性で3.51%、閉経周辺期・閉経後女性で2.40%にとどまりました。逆に、閉経前女性のうち上限量とされる150mg/日を超えていたのは0.29%とごく一部でした。目標量に届かせるには、閉経前女性で追加約40mg/日(大豆・大豆製品に換算して約45g/日相当)、閉経周辺期・閉経後女性で追加約60mg/日(同約60g/日相当)が必要と試算されています。論文では、この増量は肉や鶏肉の一部を大豆製品に置き換える「置き換え」によって行うことが望ましく、単純な追加ではエネルギー摂取が過剰になりうる(追加分だけで1日309〜457kcal相当)と指摘されています。
この研究をどう読むか
論文の考察では、今回得られた中央値はアジアの他の調査(1日あたり6.2〜54.3mg程度とされる研究群)と比べても低めで、欧米諸国の推計値(例えば米国一般集団で平均2.26mg/日、欧州の一部の国では1mg未満とされる報告)よりは高いという位置づけが示されています。ただし、これらの比較は調査対象の食品数や参照データベースの違いなど方法論上の差も影響しうるとされており、単純な優劣の比較ではない点に注意が必要です。
著者らは限界点として、豆類・豆製品は加工方法や調理法によって大豆イソフラボン含有量が変わりうるが、現行の食品成分表ではこうした変動を十分に反映しきれていないこと、閉経状況を年齢のみで簡易的に分類したため45〜55歳の女性で誤分類が生じている可能性があること、横断研究であるため大豆イソフラボン摂取と健康状態との因果関係は明らかにできないことを挙げています。また、今回わかったのはあくまで「摂取量が目安を下回っている」という食事パターン上の事実であり、摂取量を増やせば特定の病気を予防できるといった臨床的な効果を直接示すものではないと強調されています。なお、大豆イソフラボンの主要な代謝物であるエコールを産生できるかどうかには個人差があり、腸内細菌の状態によって効果の出方が変わりうる可能性にも触れられていますが、これは今後の研究課題として位置づけられています。今回の対象は中国の女性に限られており、他の集団への当てはめには追加の研究が必要だとされています。
まとめ
この全国調査からは、中国の14歳以上の女性の多くで大豆イソフラボンの摂取量が国の目安を大きく下回っており、豆腐や大豆そのものといった伝統的な大豆食品を通じた摂取量の底上げが一つの対策になりうることが示されました。ただし本研究は摂取量の実態を捉えた横断研究であり、摂取量を増やすことが実際の健康改善につながるかどうかは、今後の追跡調査や介入試験による検証が必要だと著者らは述べています。
原著論文の著者・所属:Qiuyan Shi(NHC Key Lab of Food Safety Risk Assessment, Research Unit of Food Safety, Chinese Academy of Medical Sciences (No. 2019RU014), China National Center for Food Safety Risk Assessment (CFSA), Beijing 100022, China)、Fanglei Zhao(NHC Key Lab of Food Safety Risk Assessment, Research Unit of Food Safety, Chinese Academy of Medical Sciences (No. 2019RU014), China National Center for Food Safety Risk Assessment (CFSA), Beijing 100022, China)、Feng Pan(NHC Key Lab of Food Safety Risk Assessment, Research Unit of Food Safety, Chinese Academy of Medical Sciences (No. 2019RU014), China National Center for Food Safety Risk Assessment (CFSA), Beijing 100022, China)、Dechun Luan(Institute of Nutrition and Food Hygiene, Liaoning Provincial Center for Disease Control and Prevention, Shenyang, 110172, China)、Jianwen Li(NHC Key Lab of Food Safety Risk Assessment, Research Unit of Food Safety, Chinese Academy of Medical Sciences (No. 2019RU014), China National Center for Food Safety Risk Assessment (CFSA), Beijing 100022, China)、Yuxia Ma(School of Public Health, Hebei Medical University, Shijiazhuang 050017, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Qiuyan Shi, Fanglei Zhao, Feng Pan, et al. Assessment of Dietary Soy Isoflavones Intake Among Women Aged 14 Years and Older in China: A Population-Based Cross-Sectional Study. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18162696. 原著ライセンス: cc-by.