ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となるミネラルで、昆布やわかめなどの海藻類を日常的に食べる日本では、もともとヨウ素の摂取量が多い国とされています。しかし、その摂取量や体内でのヨウ素の状態が、実際に全国規模でどの程度なのか、また甲状腺の働きとどう関係しているのかを詳しく調べたデータは限られていました。今回、エンドクライン・ジャーナル誌(2026年07月)に、日本人成人を対象とした全国調査の結果が報告されました。
研究でわかったこと
この研究は、2016年から2023年にかけて、日本全国20地域から集められた健康な成人2,845人(平均年齢45.6歳)を対象に行われた横断的な観察調査です。参加者について、尿・血清・毛髪中のヨウ素濃度、甲状腺刺激ホルモン(TSH)や甲状腺ホルモン(FT4、FT3)の血中濃度、甲状腺の自己抗体(ThAb)、超音波検査による甲状腺の大きさ、食事調査によるヨウ素摂取量、体格などが調べられました。
その結果、尿中ヨウ素濃度の中央値は295.0μg/Lで、世界保健機関(WHO)が示す適正範囲内にあることが確認されました。ただし、地域によるばらつきが大きく、最も低かったのは種子島(169μg/L)、最も高かったのは福井(943μg/L)と報告されています。甲状腺機能についても地域差がみられ、TSHの中央値が最も高くFT4が最も低かったのは石川(北陸)、TSHが最も低かったのは礼文島(北海道)でしたが、いずれの地域でもTSH・FT4・FT3の中央値は基準範囲内に収まっていたとされています。また、甲状腺の自己抗体が陽性だった人の割合は12.6%でした。統計的には、尿中ヨウ素濃度とTSHの間にのみ有意な正の相関がみられたと報告されています。この調査に基づく推定では、対象集団の平均的なヨウ素摂取量は1日あたり約400μgであり、日本人は他の民族集団と比べて多くのヨウ素を摂取している傾向があり、地域によっては特に摂取量の多いところもあることが示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで2016~2023年に集められた健康な成人を対象とした横断的な調査であり、ヨウ素摂取と甲状腺機能の因果関係を直接証明するものではありません。論文の著者らも、今後さらに大規模な疫学調査が必要であると述べています。地域ごとの数値の違いは示されていますが、個人の体調や食習慣によって差があるため、この結果がそのまま特定の個人に当てはまるとは限りません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意して読むことが大切です。
まとめ
今回の全国調査により、日本人成人の尿中ヨウ素濃度は全体としてWHOの適正範囲内にあるものの、地域によって大きな差があること、また甲状腺機能や自己抗体の陽性率にも地域差がみられることが報告されました。日本人は他の民族集団と比べてヨウ素摂取量が多い傾向にあり、地域によってはさらに摂取量が多いところもあるとされています。ヨウ素と甲状腺の関係については、今後より大規模な調査によってさらに詳しく解明されていくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:日本人成人におけるヨウ素栄養状態と甲状腺機能に関する全国調査(エンドクライン・ジャーナル・2026年07月)