私たちが日々何を食べるかは、個人の好みや知識だけでなく、住んでいる地域の環境にも影響されると考えられています。たとえば近所にスーパーや生鮮食品店が少ない、あるいは経済的に厳しい世帯が多い地域では、食生活が変わってくるのではないか、という視点です。こうした「地域の剥奪(deprivation)」と食事の質との関連は、これまでも研究されてきましたが、地域の特徴を単純に「豊かか、貧しいか」の一本の物差しで見るだけでよいのか、という疑問があります。実際には、地域には移民や年齢構成、就労状況など複数の側面が絡み合っており、それらが組み合わさることで影響の出方が変わる可能性があります。今回紹介する研究は、こうした「交差性(intersectionality)」という視点を使い、地域の複数の特徴が食事の質とどう関わっているのかを、カナダの全国調査データを用いて調べたものです。

研究でわかったこと

この研究では、カナダの2015年カナダ地域保健調査(栄養調査)に参加した18歳以上の成人を対象に、24時間思い出し法という方法で聞き取った食事内容から、食事の質を評価する指標「Healthy Eating Index(HEI-2015)」のスコアを算出しました。あわせて、各人が住む地域の特徴を表す「2016年カナダ・マージナライゼーション指数(CAN-Marg)」を用いて、地域の剥奪を4つの側面――(1)物質的資源、(2)移民・visible minority(視覚的マイノリティ)の割合、(3)年齢・労働力構成、(4)世帯・住居の状況――から評価しました。そのうえで、個人・世帯・地域のさまざまな特性を統計的に調整しながら、これら4つの側面が食事の質と単独で、あるいは組み合わさって関連しているかを、重み付き線形回帰という手法で分析しています。

その結果、「物質的資源の乏しさ」を示す地域特性は食事の質(HEI-2015スコア)の低さと関連しており(β=-0.955、95%信頼区間-1.438~-0.471)、一方で「移民・visible minorityの割合」を示す地域特性は食事の質の高さと関連していることが示されました(β=0.768、95%信頼区間0.268~1.268)。さらに興味深いことに、これらの関連は地域によって強さが異なることも示唆されています。具体的には、物質的資源が乏しい地域に住むことと食事の質の低さとの関連は、「最近の移民やvisible minorityの割合が少ない」地域や、「働いていない人の割合が多い」地域において、より強く表れる傾向が見られました。つまり、同じ「物質的に厳しい地域」であっても、その地域の人口構成によって食事の質との関連の強さが変わりうる、ということです。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究の結論として著者らは、「地域の物質的な剥奪は、一様に食事の質の低さと結びついているわけではない」とまとめています。地域の剥奪と食事の質の関連は、すべての地域で同じように見られるものではなく、その地域における移民・visible minorityの割合や、年齢・労働力の構成によって変わりうる、ということが示唆されています。この記事で紹介したのは一つの研究の結果であり、対象はカナダの成人という特定の集団・調査データに基づくものです。ここで見られた関連が他の国や地域、異なる時期の状況にもそのまま当てはまるかどうかは、この要旨の情報だけでは判断できません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意して読んでいただければと思います。

まとめ

今回紹介した研究は、「地域の豊かさ・貧しさ」と「食事の質」の関係を、単純な一本の物差しではなく、移民構成や年齢・労働力構成といった複数の地域特性の組み合わせ(交差性)という視点から検討したものです。物質的資源に乏しい地域は食事の質の低さと関連する一方、移民・visible minorityの割合が高い地域は食事の質の高さと関連しており、さらにこれらの関連の強さは地域の人口構成によって変動することが示されました。地域と食生活の関わりを考えるうえで、地域を一様なものとして捉えるのではなく、その内部の多様性にも目を向ける必要性を示す興味深い知見と言えそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:カナダにおける全国代表サンプルの成人における近隣地域の剥奪と食事の質:交差性分析(パブリックヘルス・ニュートリション・2026年07月)