レタスの仲間の「ベビーリーフ」は、サラダなどで手軽に野菜を摂れる食材として親しまれています。一方で、カリウムの摂取制限が必要な慢性腎臓病の患者にとっては、葉物野菜はカリウムを多く含むため食べにくい食材でもあります。もし栽培の工夫でカリウム含有量を抑えた野菜を作れれば、こうした患者の選択肢を広げられるかもしれません。イタリアの国立研究機構(CNR)食品生産科学研究所の研究チームは、養液栽培(土を使わず液体肥料で育てる方式)によるチコリとミズナのベビーリーフを対象に、カリウムを減らす栽培方法と、収穫後の保存方法を組み合わせた場合に、野菜の品質がどう変わるかを調べました。

研究チームはまず、養液中のカリウム濃度を変えた3つの条件で栽培を行いました。通常どおり200mg/Lのカリウムを与え続けた「対照区」、栽培期間を通じて50mg/Lに減らした「持続低減区」、そして収穫の7日前だけ200mg/Lから50mg/Lに切り替えた「収穫後期低減区」です。その結果、いずれの条件でもチコリとミズナの収量に大きな差は見られませんでした。持続低減区では植物中のカリウム含有量が最も大きく減少し、ミズナでは最大65%の低減が確認されましたが、同時に乾物量(水分を除いた実質量)や総フェノール含有量も低下してしまいました。これに対して収穫後期低減区では、チコリで556mg/100g(生重量)から447mg/100gへと19%、ミズナでは727mg/100gから496mg/100gへと32%のカリウム低減が見られた一方、乾物量は対照区と同程度に保たれていました。

収穫後の保存方法でも差が出た

次に研究チームは、収穫後の保存条件が品質にどう影響するかを検証しました。比較したのは通常の空気中での保存と、酸素10.0kPa・二酸化炭素20.0kPaという特殊な気体組成(窒素で調整した制御雰囲気)での保存です。7日間の保存試験では、制御雰囲気の方が見た目の品質保持において通常の空気保存より優れていることが示されました。特に、収穫後期低減区で育てた葉を制御雰囲気で保存した場合、電解質の漏出(細胞膜が壊れると細胞内の成分が漏れ出す現象で、傷みの指標となります)が少なく、細胞膜の状態が保たれていたと報告されています。またアンモニアの蓄積が少なく、色の保持も良好だったとされ、老化の進行が緩やかだったことがうかがえます。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、チコリとミズナという2種類の葉物野菜を対象にした実験室規模の検証であり、他の野菜や大規模な生産現場でも同様の結果が得られるかどうかは、この論文だけでは分かりません。また、カリウム含有量の減少幅や品質保持の効果は栽培条件や保存条件によって変わりうるものであり、この研究の結果がそのままあらゆる状況に当てはまるとは限りません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。

今回の情報の中に、日本の研究機関や著者の関与を示す記載はありませんでした。ただし、研究対象となったミズナ(学名 Brassica rapa L. var. nipposinica)は、日本語由来の名称を持つ野菜として知られており、今回のような栽培・保存技術の研究対象になっている点は、日本の読者にとっても興味深いところです。

まとめ

この研究では、養液栽培のチコリとミズナにおいて、収穫の7日前だけカリウム濃度を下げるという方法が、乾物量などの品質を保ちながらカリウム含有量を減らせる可能性を示しました。さらに、この方法で育てた野菜を酸素・二酸化炭素の比率を調整した制御雰囲気で保存すると、通常の空気保存に比べて品質保持の面で良好な結果が得られたと報告されています。研究チームは、こうした栽培と保存の組み合わせが、慢性腎臓病の患者向けにカリウムを抑えた葉物野菜を生産するための一つの農業技術になりうると述べています。今後、他の野菜や実際の生産・流通環境での検証が進むことが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Michela Palumbo, Massimiliano D’Imperio, Lucia Bonelli, et al. Late-stage potassium reduction combined with controlled atmosphere preserves postharvest quality of chicory and mizuna baby-leaf. ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.jafr.2026.103188. 原著ライセンス: cc-by.