魚を育てながら同じ水で野菜を育てる「アクアポニクス」は、資源循環型の農業として注目されています。魚の排泄物が野菜の肥料になるという仕組みですが、実はこの循環にはひとつ弱点があります。それは、野菜の生育に欠かせないミネラルである「カリウム(K)」が、魚だけを育てる水槽の水には十分な量が含まれていないことです。そのため、多くのアクアポニクス農家は化学肥料でカリウムを補っていますが、これはこのシステムが目指す「持続可能性」を損なう要因にもなっています。
今回紹介する研究は、この課題に対して「魚の飼料」に工夫を加えるというユニークなアプローチを試みました。着目したのは「ギ酸カリウム(KDF)」という添加物です。魚の飼料にKDFを混ぜて食べさせることで、魚の代謝を通じて水中のカリウム濃度を高め、野菜側にもカリウムを供給できるのではないか、という発想です。この方法がアクアポニクスで実際に効果を持つかどうかは、これまで検証されていなかったとのことです。
研究でわかったこと
研究チームは、ナイルティラピアという魚とレタス(Lactuca sativa L.)を同じ水槽・栽培システムでつなげた「結合型アクアポニクス」を用いて実験を行いました。ティラピアの飼料に、KDFを1kgあたり12g、18g、24gの3段階で添加したグループを用意し、KDFを添加しない基本飼料のグループを対照群としました。なお、この対照群での水中カリウム濃度は1リットルあたり3.0±0.2mgで、これがアクアポニクスにおいて「不足しがちな水準」であると位置づけられています。
45日間の飼育期間中および収穫時に、魚とレタスそれぞれの成長に関わる複数の指標が調べられました。加えて、魚の脂肪酸組成、レタスの総クロロフィル量の指標(SPAD値)や色の特徴も測定されています。
その結果、KDFを1kgあたり18g添加した飼料(KDF18)のグループで、魚とレタスの両方において最も良好な成長が確認されたと報告されています。次いで、24g添加したグループ(KDF24)でも良い結果が見られたとのことです。具体的には、KDF18グループの魚は対照群と比べて体重増加量が25%高く、レタスの収穫時の生重量は対照群に比べて126%増加したと報告されています。
また、魚の筋肉中の脂肪酸組成にも変化が見られたとされています。KDFの添加量が増えるほど飽和脂肪酸(SAFA)の総量は増加した一方で、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の合計量、およびn-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)の総量も増加し、特にKDF24グループでその傾向が顕著だったと述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ティラピアの飼料にKDFを添加するという特定の条件下で行われた一つの研究であり、結果はこの実験系・実験条件のもとで得られたものです。KDFの添加量としては18g/kgが魚とレタスの双方にとって特に良好な結果を示したとされていますが、これがあらゆるアクアポニクスシステムや他の魚種・野菜の組み合わせにもそのまま当てはまるかどうかは、この要旨からは分かりません。研究者らは、KDF、特に18g/kgという添加率が、カリウム不足というアクアポニクスの課題に対応しうる有望な選択肢であると結論づけていますが、これは一つの研究成果であり、結論が確定したものではない点に留意が必要です。
まとめ
この研究では、アクアポニクスにおけるカリウム不足という課題に対し、魚の飼料にギ酸カリウム(KDF)を添加するという方法が、ティラピアの成長とレタスの収量の両方を高める可能性が示されたと報告されています。特にKDF18の条件では、魚の体重増加が25%、レタスの生重量が126%増加したとされ、あわせて魚の脂肪酸組成にも変化が見られたとのことです。化学肥料に頼らずに循環型システムの生産性を高める工夫として、今後の研究の広がりが注目されるテーマといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ナイルティラピア(Oreochromis niloticus)飼料へのギ酸カリウム添加がアクアポニクスにおけるレタス(Lactuca sativa L.)収量を向上させる(アクアカルチャー・インターナショナル・2026年06月)