ケフィアは、牛乳を乳酸菌や酵母で発酵させて作る飲料で、プロバイオティクスや生理活性物質を豊富に含むことで知られています。これまでの動物実験では、高血圧モデルにおいてケフィアが心臓を保護する作用を示すことが報告されてきましたが、心筋梗塞、すなわち冠動脈が詰まって心筋の一部が壊死してしまう状態に対する効果については、これまであまりよくわかっていませんでした。心筋梗塞は世界的に見ても死亡や長期的な障害の主要な原因の一つとされており、その後の心機能回復を助ける手段を探る研究は重要なテーマとなっています。今回紹介する研究は、冠動脈を人為的に結紮して心筋梗塞を起こしたラットに、ケフィアを長期間与えるとどのような変化が見られるかを調べたものです。
研究でわかったこと
この研究では、雌のウィスターラットを、手術のみを行った偽手術群(S群)、心筋梗塞を起こしたうえで特に処置をしない群(IV群)、心筋梗塞を起こしたうえでケフィアを投与した群(IK群)の3グループに分け、60日間にわたって毎日ケフィアなどの投与を続けました。そのうえで、血行動態(血圧や心拍数などの指標)、梗塞の範囲、心臓組織中のコラーゲン沈着(線維化の目安)、酸化ストレスの指標、臓器の形態的な変化などが評価されました。
その結果、ケフィアを長期投与された心筋梗塞ラットでは、左室拡張末期圧(心臓が十分に拡張しきれているかを示す指標)、梗塞の面積、コラーゲンの沈着量が、投与しなかった群と比べて有意に低くなったと報告されています。また血行動態についても、収縮期・拡張期・平均動脈圧が低下する一方で心拍数が増加するという変化が見られ、全体として改善が示唆されています。さらに、酸化ストレスの指標である『進行性酸化タンパク質産物(AOPP)』の値が低下していたことから、酸化ストレスが和らいでいた可能性が示されています。加えて、全身性の毒性や臓器の肥大といった異常は観察されなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
これらの結果から、研究チームは牛乳由来のケフィアが血行動態の改善、心臓の望ましくない構造変化(リモデリング)の抑制、酸化ストレスの軽減を通じて、心臓を保護するような作用を持つ可能性を示唆しています。ただし、これはあくまで雌ラットを用いた動物実験の結果であり、ヒトにおいても同様の効果が得られるかどうかは、この要旨の情報だけでは判断できません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には注意が必要です。研究チームは、ケフィアが心筋梗塞後の心機能回復を補助する『可能性』を支持する結果だとしており、あくまで補助的な戦略の一つとして位置づけている点も踏まえて読む必要があります。
まとめ
今回の研究では、心筋梗塞を起こしたラットにケフィアを60日間与えたところ、心臓の機能や血行動態、酸化ストレスに関わる複数の指標で改善が示唆されたと報告されています。発酵乳飲料と心臓の健康というテーマは今後も研究が続けられていく分野であり、ヒトでの検証も含めたさらなる研究の積み重ねが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:牛乳由来ケフィアは心筋梗塞を誘発した雌ラットの心機能を改善する(ジャーナル・オブ・ニュートリション・アンド・メタボリズム・2026年01月)