食品添加物や日焼け止め、化粧品などに広く使われている酸化チタンナノ粒子(TiO₂ NPs)。その微小なサイズゆえに体内に取り込まれた際の影響が、近年ナノ毒性学の分野で関心を集めています。一方で、小麦の胚芽から得られる小麦胚芽油(WGO)は抗酸化作用を持つ油として知られています。もしこの油を「ナノカプセル化」という技術で加工したら、ナノ粒子による体への負担をやわらげる助けになるのでしょうか。今回、サイエンティフィック・リポーツ誌に掲載予定の研究は、ラットを用いてこの問いに取り組んだものです。
研究でわかったこと
研究チームはまず、小麦胚芽油をナノカプセル化する技術を確立し、その粒子の性質を詳しく調べました。得られたナノカプセルは球形で、大きさは平均173.9±0.51ナノメートル、粒子の表面電位を示すゼータ電位は14.4±0.23mV、粒子サイズのばらつきを示す指標(PDI)は0.39±0.01だったと報告されています。また、試験管内での実験では、強い抗酸化活性を示したとされています。
続いて、雄ラットを用いて酸化チタンナノ粒子の毒性を調べたところ、ナノ粒子は主に肺と脾臓に蓄積し、投与量が増えるほど生化学的な変化や免疫調節の乱れが強まったことが示されました。具体的には、脂質の酸化を示すTBARS値や一酸化窒素(NO)濃度の上昇、DNA損傷、抗酸化酵素の減少といった変化が確認されています。組織や免疫組織化学の観察でも、はっきりとした組織の損傷が確認されたとのことです。
ここで注目されるのが、小麦胚芽油を同時に与えた場合の結果です。通常の(遊離型の)小麦胚芽油を与えた場合でもこれらの悪影響は軽減されましたが、ナノカプセル化した小麦胚芽油を与えた場合には、より優れた保護効果がみられたと報告されています。研究チームは、この効果には抗酸化作用や免疫調節作用の増強が関わっている可能性があるとしています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究はラットを対象とした動物実験であり、ヒトでの効果を直接示したものではありません。また、酸化チタンナノ粒子の毒性軽減という特定の条件下での結果であり、小麦胚芽油やそのナノカプセル製剤が人の健康維持や病気の予防・治療に効果があると断定するものではない点に注意が必要です。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今後、ナノ毒性学や職業衛生、食品安全といった分野でさらなる検証が期待される、基礎的な知見と位置づけられます。
まとめ
今回の研究では、ナノカプセル化した小麦胚芽油が、酸化チタンナノ粒子によるラットの肺・脾臓・血液への用量依存的な悪影響を、遊離型の油よりも効果的に軽減したことが示されました。ナノ技術を活用した食品由来成分の新しい応用可能性を示す研究として、今後の展開が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ナノカプセル化小麦胚芽油による雄ラットの肺・脾臓・血液における酸化チタンナノ粒子用量依存性毒性の比較軽減効果(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)