手術を受けたあと、出血がなかなか止まらないことは患者さんの回復を左右する重要な問題です。現在使われている止血剤は効果がある一方で、血栓ができやすくなるリスクも指摘されており、より安全な栄養学的アプローチが求められてきました。今回紹介する研究は、養殖されたオオサンショウウオの皮膚に含まれる「ユーメラニン」という色素成分に着目し、これが体内の血液凝固のバランスにどのような影響を与えるのかを調べたものです。ユーメラニンはメラニン色素の一種で、皮膚や毛髪の色にも関わる天然由来の物質として知られています。
研究でわかったこと
研究チームは、養殖オオサンショウウオの皮膚から得たユーメラニンについて、電子顕微鏡による元素分析(SEM-EDS)や赤外分光法(FTIR)など複数の手法でその構造と安全性を調べました。その結果、このユーメラニンは不規則に集まった構造を持ち、カルシウムイオン(Ca2+)がその形成に関わっていることが確認されました。また紫外可視吸収やX線光電子分光法などによる分析でも、この物質がユーメラニンであることが裏づけられたとされています。
次に、雄のウィスター系ラット114匹を用いて、凝固機能への影響と腸内代謝物の分析が行われました。ユーメラニンを投与してから2時間後と24時間後に尾からの出血に関する指標や凝固検査値を測定し、また投与2時間後には腸内の代謝物も調べられています。その結果、腸内代謝物の中からトラネキサム酸やアミノカプロン酸といった、止血に関わることが知られる成分が検出されたと報告されています。さらに、リジンやアスパラギン酸、アルギニンなどのアミノ酸の増加、そしてカルシウムイオンの放出増加も確認されました。
出血に関する実験結果としては、投与2時間後の時点で、高用量のユーメラニンを与えた群は、対照群と比べて出血量が38.2%、止血にかかった時間が27.0%それぞれ少なかったとされています(p<0.01)。また血液凝固に関わる指標であるプロトロンビン時間(PT)は、高用量群で15.8±1.0秒、対照群で17.3±1.1秒(p<0.01)、フィブリノゲン濃度(FIB)は高用量群で230±10 mg/dL、対照群で178±7 mg/dLであったと報告されています(p<0.001)。いずれの数値もラットの正常な生理的範囲内(PTは13.32〜17.37秒、FIBは180〜504 mg/dL)に収まっており、過剰な血液凝固(血栓のできやすさ)を示す兆候は見られなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究では、養殖オオサンショウウオ由来のユーメラニンが、その微細構造や腸内での代謝を通じて血液凝固のバランスを調整する可能性が示唆されています。研究チームは、天然由来のユーメラニンが術後出血のリスク管理を助ける機能性食品成分としての基礎となりうると結論づけています。ただし、この研究はラットを用いた動物実験であり、ヒトでの効果や安全性を直接示したものではありません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には注意が必要です。今後、ヒトを対象とした研究などを通じて、さらなる検証が待たれる段階だといえるでしょう。
まとめ
養殖オオサンショウウオの皮膚由来のユーメラニンが、ラットの実験において出血量や止血時間の減少、そして凝固関連指標への影響と関連づけられたことが報告されました。腸内代謝物の変化を含め、天然素材による術後出血管理への応用可能性を探る基礎的な知見として位置づけられる研究といえます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:養殖オオサンショウウオ皮膚由来ユーメラニンは凝固系の恒常性を促進する:術後出血に対する栄養学的介入(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)