この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Ethnic Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の狙い
持続可能なたんぱく源をめぐる議論は、環境や技術の問題として語られることが多いものです。しかし研究チームは、実際に食べてもらえるかどうかは、その食品が「食べられるもの」「おいしいもの」「この場面で食べてよいもの」という既存の感覚に収まるかどうかで決まると指摘しています。環境価値を理解していても購入にはつながらない、という態度と行動のずれは以前から知られてきました。
著者らが手がかりにしたのは、韓国の伝統的な食べ物であるポンテギです。ポンテギは蚕のさなぎを丸ごと煮たり蒸したりして味付けした食品で、養蚕の副産物として生まれ、屋台や缶詰として現在も流通しています。論文は、ポンテギを「変わらない古代の料理」でも「新しく設計されたたんぱく源」でもなく、養蚕、近代の屋台文化、製品形態の変化によって形づくられてきた文化的に見慣れた食品としてとらえています。
そのうえで研究チームが調べたのは、持続可能なたんぱく源をすでに知っている韓国の成人のなかで、昆虫を使った食品への自己申告の「なじみ」が、購入したいという意向とどう結びつくかという点です。あわせて性別と年齢層による違い、そしてなじみと意向の関係が性別や年齢層によって変わるかどうかも検討されました。
調査の方法
調査は2025年5月19日から26日にかけて、韓国の全国規模のオンライン調査として実施されました。調査会社の登録パネルを使い、男女と5つの年齢層(20代、30代、40代、50代、60歳以上)ごとに目標人数を定める割当抽出が用いられ、2000人が回答を終えました。論文の分析対象は、このうち持続可能なたんぱく源を知っていると答えた1274人に限られています。
「なじみ」の測り方には注意点があります。研究チームは、持続可能なたんぱく源として挙げられた食品のリストのなかから「食用昆虫」を選んだ人を「なじみあり」とし、選ばなかった人を「なじみなし」としました。これは認知や過去の認識の幅広い目安であって、文化的なじみの多面性を測る検証済みの尺度ではない、と著者ら自身が述べています。購入意向も同様に、購入してよいと思う製品として昆虫食品を選んだかどうかという分類で、実際の購買行動ではなく表明された意向です。いずれの項目もポンテギそのものを指してはおらず、昆虫の種類や製品の形(丸ごとか粉末かなど)も区別していません。
解析では、なじみだけを入れたモデルから始め、性別と年齢層、さらに地域・学歴・職業を順に加えたロジスティック回帰が用いられました。加えて、なじみと性別、なじみと年齢層の交互作用も検討されています。
報告された主な結果
購入意向を示した人の割合は、なじみのない人では700人中37人(5.3%)、なじみのある人では574人中61人(10.6%)でした。相対的には約2倍の差ですが、著者らは、どちらの群でも購入意向を示した絶対的な割合は低いままだったと述べています。
回帰分析では、なじみのある人の購入意向のオッズは、性別・年齢層を調整した後も、さらに地域・学歴・職業を加えた後も統計的に有意に高いままでした(完全調整モデルのオッズ比1.989、95%信頼区間1.284〜3.082)。女性は男性より購入意向のオッズが低く(0.418、0.263〜0.666)、20代と比べて50代(3.114)と60歳以上(5.401)で高いオッズが報告されています。地域と学歴は購入意向と有意な関連を示しませんでした。なじみと性別(p=0.558)、なじみと年齢層(p=0.176)の交互作用はいずれも有意ではなく、なじみと購入意向の関係が性別や年齢層で異なるという統計的な証拠は得られなかったと報告されています。
この結果が示すもの
研究チームは、この結果を「なじみが受容への障壁の一つを下げるかもしれないが、文化的に見慣れていることだけで日常的な購入に至るわけではない」と読み取っています。ポンテギを知っている人が、においや見た目や売られている場所を思い浮かべられるのと、それを好んだり今の食事にふさわしいと考えたりすることは別のことだからです。粉末や加工原料を使った別の昆虫食品への受け入れが、伝統的な昆虫食へのなじみから自動的に広がるとは限らない、という点も強調されています。
高年齢層で意向が高かったことについては、世代を通じた食の経験を示す間接的な手がかりとしつつ、今回の調査は子ども時代の経験や家庭での伝承、ポンテギを食べた頻度を直接測っていないため、年齢はあくまで世代の目印として解釈すべきだと述べられています。横断的な調査であるため因果関係は言えず、分析対象が持続可能なたんぱく源を知っている人に限られている点も、結果の適用範囲を限定します。
論文が示す意味として著者らが挙げるのは、環境についての知識と「食べられるものとして受け入れられるか」という文化的な感覚が、食品受容の別々の段階にあたるという見方です。ポンテギは、養蚕の副産物から屋台の食べ物、缶詰の商品、記憶に残る感覚の対象へと位置を変えてきた食品であり、その移り変わりを踏まえることで、文化的なじみ、表明された意向、そして実際の行動を区別して考える視点が得られる、と整理されています。
著者:Jung‐Heun Ha(Department of Food Science and Nutrition, Dankook University, Cheonan, 31116, Republic of Korea)、Miae Doo(Department of Food and Nutrition, Kunsan National University, Gunsan, 54150, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jung‐Heun Ha, Miae Doo. Traditional beondegi as an ethnic food context for insect-based food acceptance among sustainability-aware Korean adults: a nationwide cross sectional study. Journal of Ethnic Foods 2026-09-21. DOI: 10.1186/s42779-026-00329-2. 原著ライセンス:CC BY.