日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:npj Science of Food
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
食物繊維は腸内細菌のエサとなり、その発酵を通じて腸の健康に関わると考えられてきました。しかし、日本の広島大学大学院統合生命科学研究科の研究グループ(Yoshiki Ishii氏ら)は、京都女子大学、東京農業大学の研究者と共同で、食物繊維の一種であるオオバコ(サイリウム)が、腸内細菌の発酵とは別の経路でも腸の防御機能を高めている可能性を報告しています。
この研究グループは以前、マウスにオオバコを与えると、小腸で抗菌タンパク質であるSPRR2AとRELMβの産生が増えることを見出していましたが、そのしくみは分かっていませんでした。今回の研究は、この現象の背後にある分子経路を明らかにすることを目的としています。
タフト細胞とILC2という免疫の連携役
研究チームがまず注目したのは、腸に存在する「タフト細胞」と呼ばれる化学感知細胞です。マウスにオオバコを与えると、小腸でIl25とIl13という遺伝子のmRNA発現、STAT6タンパク質のリン酸化、そして抗菌タンパク質の発現が増加しました。ところが、タフト細胞を持たないPou2f3遺伝子欠損マウスでは、これらの反応がすべて見られなくなったといいます。この結果は、タフト細胞が起点となり、ILC2(自然リンパ球の一種)を介してIL-13というシグナル物質が働き、抗菌タンパク質の産生を促す経路が存在することを示唆しています。
さらに腸管オルガノイド(腸組織を模した培養モデル)を使った実験では、IL-13がJAK1/2-STAT6という経路を介してSPRR2AとRELMβの発現を誘導することも確認されました。
味覚受容体がオオバコを感知している可能性
研究チームは、この反応の引き金がどこにあるのかも調べています。TRPM5という化学感知シグナルに関わる分子や、苦味受容体を薬理学的に阻害すると、オオバコによる2型免疫反応の活性化と抗菌タンパク質の誘導が抑えられました。さらに、HEK293T細胞にマウスの苦味受容体(Tas2r)を発現させてカルシウム応答を調べる実験から、Tas2r107とTas2r129という受容体がオオバコに反応する候補として同定されています。これは、腸のタフト細胞が苦味受容体を介してオオバコを「感知」している可能性を示す結果です。
加えて、オオバコを酵素処理して分解すると、タフト細胞の活性化や抗菌タンパク質の誘導が弱まったことから、この反応にはオオバコの繊維としての構造が保たれていることが関わっているとされています。また、広域抗生物質でマウスの腸内細菌を減らした状態でもオオバコによる反応は維持されたことから、この経路は腸内細菌の働きに大きくは依存しない可能性が示されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
今回の知見はマウスや培養細胞、オルガノイドを用いた実験に基づくものであり、ヒトの体内で同様の経路が働くかどうかは、この研究だけでは分かりません。また、抗菌タンパク質の増加が実際の感染防御や健康状態の改善にどの程度つながるかについても、この論文の範囲では検証されていません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
この研究は、食物繊維の働きを腸内細菌の発酵だけでなく、腸自身が持つ味覚受容体を介した感知のしくみからも捉え直す視点を提供するものといえます。今後、他の食物繊維や食品成分についても同様の経路が働くのか、またヒトでどの程度当てはまるのかが、さらなる研究の焦点になると考えられます。
原著論文の著者・所属:Yoshiki Ishii(Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University, Higashi-Hiroshima, Japan)、Minami Ogura(Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University, Higashi-Hiroshima, Japan)、Taiyo Matsunaga(Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University, Higashi-Hiroshima, Japan)、Masataka Narukawa(Department of Food and Nutrition, Kyoto Women’s University, Kyoto, Japan)、Ken Iwatsuki(Faculty of Applied Bioscience, Tokyo University of Agriculture, Tokyo, Japan)、Takuya Suzuki(Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University, Higashi-Hiroshima, Japan)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Yoshiki Ishii, Minami Ogura, Taiyo Matsunaga, et al. Psyllium fiber enhances intestinal antimicrobial protein expression through bitter taste receptor-associated tuft cell–ILC2 signaling. npjサイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01052-7. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.