この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:International journal of food science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的:生きたまま腸へ届けるという課題

プロバイオティクスは、十分な量を摂ったときに腸内で定着し、腸内細菌のバランスを整えて健康に寄与するとされる生きた微生物です。ただし論文によれば、腸に届く生菌数は1グラムあたり10の6乗〜10の7乗個以上が必要とされる一方で、菌は高温、低いpH、酸素、胃酸、胆汁酸塩、消化酵素といった過酷な環境にさらされて死滅しやすく、量と生存性の確保が大きな課題になっています。

この問題への対策として知られているのが、菌を保護膜で包む「マイクロカプセル化」です。研究チームは、海藻由来の多糖であるアルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムを反応させてできるゲルの網目構造に着目しました。この構造はpHに応じて性質が変わるため、胃では菌を守り、大腸で放出させる設計に向くと説明されています。

研究チームが以前に分離した菌株 Limosilactobacillus fermentum FUA033 は、エラグ酸をウロリチンAという成分に変換する能力をもつと報告されています。今回の研究の狙いは、この菌株に加えて、ザクロの果皮と種子から取り出したポリフェノール豊富な抽出物を同じカプセルに一緒に閉じ込め、両者を同時に腸へ運ぶ仕組みをつくることでした。ザクロの果皮や種子は加工時の副産物であり、その有効活用という側面もあります。

何を調べ、どう作ったか

研究チームはまず、尿素とベタインから調製した「天然深共融溶媒」と呼ばれる溶媒に超音波処理を組み合わせて、乾燥・粉砕したザクロの果皮と種子からポリフェノールを抽出しました。抽出物中の総ポリフェノール量は、没食子酸を基準とする比色法で測定されています。

カプセルの作製では、抽出物と菌の懸濁液をアルギン酸ナトリウム溶液に混ぜ、注射器で塩化カルシウム溶液に滴下してゲル化させました。そのうえで、アルギン酸ナトリウム濃度、塩化カルシウム濃度、抽出物の添加量、固化時間という4つの条件を一つずつ変えて、菌がどれだけ閉じ込められたか(包埋率)を指標に最適な組み合わせを探しています。

できあがったカプセルについては、電子顕微鏡による形態観察、赤外分光法(FTIR)とX線回折(XRD)による内部構造の分析が行われました。さらに、4度と25度で4週間保存した際の生菌数の変化、そして胃液と腸液を人工的に再現した液に順に浸す試験(体外消化試験)によって、生存率が調べられています。比較対象として、カプセル化していない菌そのものと、ザクロ抽出物を入れずに作ったカプセルが用いられました。

報告された主な結果

抽出については、総ポリフェノール量が1グラムあたり30.68±0.12ミリグラム没食子酸相当と報告されています。論文では、同じ抽出時間で従来の還流抽出法(21.32ミリグラム)や浸漬法(20.44ミリグラム)を用いた場合の報告値と比較し、今回の方法の効率が高いとしています。

カプセルの条件を最適化した結果、アルギン酸ナトリウム1.0%、塩化カルシウム1.2%、抽出物1.5%、固化時間40分という組み合わせが選ばれ、包埋率は90.23%±1.42%に達したと報告されています。カプセルは球形で粒径がそろっており、平均直径は3.25±1.06ミリメートルでした。電子顕微鏡では、ザクロ抽出物を含まないカプセルの表面にくぼみや亀裂が見られたのに対し、抽出物を含むカプセルの表面はなめらかで、菌が内部に均一に分散していたと述べられています。

保存試験では、4度で4週間後、カプセル化していない菌が10.31から6.57 log CFU/gまで減少したのに対し、抽出物なしのカプセルは7.18、抽出物入りのカプセルは8.15 log CFU/gを保ちました。25度では、カプセル化していない菌が5.51 log CFU/gまで下がる一方、抽出物入りのカプセルは6.80 log CFU/gを維持し、この条件で必要とされる水準を上回っていたのは抽出物入りのカプセルだけだったと報告されています。

体外消化試験では、人工胃液に2時間浸した後、カプセル化していない菌はほぼ完全に失われました。抽出物なしのカプセルは6.11 log CFU/gを保ち、抽出物入りのカプセルは8.09 log CFU/gでした。続いて人工腸液で処理すると、抽出物なしのカプセルは2.71 log CFU/gまで落ち込んだのに対し、抽出物入りのカプセルは6.94 log CFU/gを保ったと報告されています。論文は、この差の背景として、ポリフェノールがカルシウムイオンとの結合やアルギン酸との水素結合を通じて網目構造を緻密にしたこと、菌が均一に分散したこと、ポリフェノールの抗酸化作用が働いたことを挙げ、赤外分光とX線回折の結果がその構造変化を裏づけたと説明しています。

この研究が示すこと

この研究は、プロバイオティクスを包む壁材に植物由来のポリフェノールを一緒に組み込むことで、壁そのものの構造が強くなり、結果として菌の生き残りやすさも変わりうることを、構造の分析と生存数の測定の両面から示したものです。ザクロの果皮や種子という加工の副産物を素材として使っている点も、この設計の特徴といえます。

著者らは、プロバイオティクスと植物由来ポリフェノールの相互作用を活かした製剤開発の科学的な土台を築くものだと位置づけており、今回の評価が試験管内での模擬消化にもとづくことも明記しています。

著者:Ge Y(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Hu J(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Liu S(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Yang G(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Hua Q(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Gu Q(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Mao T(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)、Xue X(Kangda College, Nanjing Medical University, Nanjing, China, njmu.edu.cn.)、Yu B(Sino-German Joint Research Institute, Nanchang University, Nanchang, China, ncu.edu.cn.)、Fang Y(School of Marine Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang, China, hhit.edu.cn.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ge Y, Hu J, Liu S, et al. Preparation and In Vitro Simulated Digestion Study of Coembedded Microcapsules Containing Pomegranate Active Extract and Probiotics. International journal of food science 2026-09-13. DOI: 10.1155/ijfo/1979133. 原著ライセンス:CC BY.