私たちが日々吸い込んでいる大気には、目に見えないほど小さな粒子状物質(PM)が含まれています。中でも「PM0.5」と呼ばれる非常に微小な粒子は、体の奥深くの組織にまで入り込みやすく、酸化ストレスを介して細胞にダメージを与え、さまざまな慢性疾患の発症に関わる可能性があるとして注目されています。都市部での曝露が増えている一方で、その生物学的な影響や、影響を和らげる方法についてはまだ十分に調べられていません。今回紹介する研究は、この「PM0.5によるDNA損傷」に対して、地中海食でおなじみの食品が保護的に働くかどうかを、細菌やヒト細胞を使って探ったものです。

どんな研究か

研究チームは、ヨーグルト、リンゴ、レモン、桃、キウイ、ブロッコリー、玉ねぎ、トマトという、地中海食に典型的な8種類の食品を選び、PM0.5(都市部の微小粒子状物質)から抽出した有機成分がもたらす変異原性・遺伝毒性(DNAに傷をつけたり変異を引き起こしたりする性質)を、これらの食品がどの程度軽減できるかを調べました。評価には2つの手法が使われています。ひとつは細菌(サルモネラ菌 TA98株)を用いた「エームス試験」で、これは物質の変異原性を調べる代表的な手法です。もうひとつは、ヒトの肺由来(A549)、肝臓由来(HepG2)、大腸由来(HT-29)の培養細胞を用いた「コメットアッセイ」で、DNA損傷の程度を可視化して評価する手法です。

研究でわかったこと

まず、PM0.5の有機抽出物にさらされると、細菌でもヒト細胞でも、有意な変異原性・遺伝毒性が確認されたと報告されています。つまり、この微小粒子には実際にDNAを傷つける作用があることが示された形です。

その上で、いくつかの食品には目立った保護効果が見られたとされています。細菌を使った実験では、ヨーグルト、リンゴ、玉ねぎ、トマトが、変異原性を50%以上低下させたと報告されています。ヒトの培養細胞を使った実験では、ヨーグルトとトマト(トマトピューレを含む)が特に強い保護効果を示し、肺由来のA549細胞では最大90%のDNA損傷軽減が観察されたとのことです。このほか、桃、リンゴ、玉ねぎについても、細胞の種類によって追加的な損傷軽減効果が確認されたと述べられています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、あくまで細菌やヒトの培養細胞を用いた実験室レベルでの検証であり、実際に人がこれらの食品を食べた場合に体内で同様の保護効果が得られるかどうかを直接示したものではありません。論文自体も、こうした保護効果のメカニズムを詳しく明らかにし、生体内(in vivo)でも同様の効果が確認されるかを確かめるためには、さらなる研究が必要だと述べています。特定の食品を食べれば大気汚染の影響を防げる、といった単純な結論が出たわけではない点には注意が必要です。

まとめ

この探索的研究では、都市の微小粒子状物質PM0.5が細菌やヒト細胞に対して変異原性・遺伝毒性を示す一方で、ヨーグルトやトマトをはじめとする地中海食に典型的な食品の抽出物には、実験系においてDNA損傷を軽減する働きが見られたことが報告されています。発酵食品や野菜が持つこうした働きの可能性は興味深いものですが、これは一つの研究段階の知見であり、今後の研究でメカニズムや実際の体内での効果が確かめられていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:地中海食由来の食品は都市微小粒子状物質(PM0.5)の変異原性・遺伝毒性に対するDNA保護ツールとなり得るか?細菌および ヒト細胞株を用いた探索的研究(エア・クオリティ・アトモスフィア・アンド・ヘルス・2026年08月)