この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜこの研究が行われたか

血液中の尿酸値が高くなる高尿酸血症は、痛風の原因となるほか、慢性腎臓病や高血圧、心血管疾患のリスク要因としても知られています。論文の著者らは、現在の対処法が長期の薬物療法や食事制限に頼りがちで、副作用や継続の難しさという課題を抱えている点を指摘しています。

そこで注目されているのが、腸内の細菌です。食事に含まれるプリン体のうち、イノシンやグアノシンといった「プリンヌクレオシド」と呼ばれる物質は、体内で尿酸がつくられるときの材料になります。これらを腸の中で先に分解してしまう細菌がいれば、尿酸の材料そのものを減らせるのではないか、という考え方です。研究チームは、こうした働きを持ち、なおかつ環境の変化に強い菌株を新たに探すことを目的としました。

著者らが着目したのは、ヘインドリックシア・コアグランス(Heyndrickxia coagulans)という細菌です。この種は芽胞(休眠状態の耐久性の高い形)をつくるため熱や酸に強く、乳酸菌のような性質と丈夫さを併せ持つと説明されています。ただし、これまでに報告された同種の菌株については、ヌクレオシドを分解する仕組みや、そのとき何ができるのかが十分に確かめられていませんでした。

何を調べ、何が分かったか

研究チームは、中国の伝統的な発酵食品である「酵素(ジャオスー)」から菌を探しました。イノシンとグアノシンだけを炭素源とする培地を使い、これらを利用できる菌だけが生き残る条件で繰り返し培養することで、NJ01と名付けた新しい菌株を分離しています。ゲノム全体の塩基配列を比較した結果、この菌株はH. coagulansと99.97%の一致を示し、同種と判定されました。

分解能力を調べる試験では、菌体をリン酸緩衝液に入れ、イノシンまたはグアノシンを1リットルあたり1.0グラム加えて24時間培養しました。その結果、増殖していない状態の菌体(静止菌体)が24時間以内に両方のヌクレオシドを100%分解したと報告されています。菌体を壊してつくった無細胞抽出液でも、同じく24時間以内に100%の分解が確認されました。イノシンの分解速度はグアノシンより明らかに速かったとされています。

高速液体クロマトグラフィーという、混合物を成分ごとに分けて測る手法で分解の過程を追ったところ、イノシンからはヒポキサンチン、グアノシンからはグアニンが生じることが、標準物質との比較によって確認されました。これらの生成物は時間が経っても減り続けなかったことから、著者らはこの経路の最終産物だと述べています。

ゲノム解析では、全長3.64メガベースの配列が一つのまとまりとして得られ、3475個のタンパク質をコードする遺伝子が予測されました。この中に、プリンヌクレオシドホスホリラーゼという酵素をつくるdeoD遺伝子が見つかり、PCRでも実際に存在することが確かめられています。著者らは、イノシンとグアノシンがこの共通の経路を通って分解されると提案しています。ただし論文は、deoDの働きがゲノム注釈にもとづく予測であり、遺伝子発現の直接的な検証は今後の課題として残っていると明記しています。

安全性とプロバイオティクスとしての性質も調べられました。血液寒天培地では赤血球を壊す性質(溶血性)を示さず、アレルギーなどの原因となるバイオジェニックアミンをつくる酵素活性も検出されませんでした。ヒト腸管由来のCaco-2細胞を使った試験では、対照群の細胞生存率99.16%に対し、菌の培養上清を加えた群は99.24%でした。試験した9種類の抗生物質すべてに対して感受性を示し、病原性に関わる遺伝子もほとんど見つからなかったと報告されています。腸内での定着に関わるとされる自己凝集能は、2時間で57.22%、4時間で63.67%でした。

この研究が示すこと

この研究は、発酵食品という身近な素材から、尿酸の材料となる物質を分解できる新しい菌株を見つけ出し、その分解産物と、関与すると考えられる遺伝子までを一続きに示した点に意味があります。どの物質が何に変わるのかが明らかになったことで、これまで動物実験の結果が先行していた分野に、試験管内での具体的な裏づけが加わりました。

著者らは、この菌株が高尿酸血症への介入の候補になりうるとしつつ、確認されたのはあくまで試験管内での分解能力と安全性の基礎的な指標であり、消化管での耐性評価や動物モデルでの検証が今後必要だと述べています。

著者:Zhenyu Yuan(School of Chemistry and Biological Engineering, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China)、Xiaoyu Cao(School of Chemistry and Biological Engineering, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China)、Qianqian Xu(School of Chemistry and Biological Engineering, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China)、Kun Lin(School of Chemistry and Biological Engineering, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China)、Xinyue Du(School of Chemistry and Biological Engineering, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China)、Hai Yan(School of Chemistry and Biological Engineering, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhenyu Yuan, Xiaoyu Cao, Qianqian Xu, et al. Pathway and Mechanism for the Biodegradation of Inosine and Guanosine by Heyndrickxia coagulans NJ01. Foods 2026-09-15. DOI: 10.3390/foods15183254. 原著ライセンス:CC BY.