赤ちゃんに離乳食としてピーナッツや卵などのアレルギーを起こしやすい食品を早期に取り入れることが近年推奨されるようになり、それに伴って、じんましんなどの分かりやすい症状ではなく、遅れて繰り返す嘔吐を特徴とする『食物蛋白誘発性腸炎症候群(FPIES)』という非IgE性の食物アレルギーが注目されています。今回、オランダのVieCuri医療センター小児科の研究チームが、木の実(カシューナッツやクルミなど)が引き金となり重篤な症状を起こした2人の乳児の症例を報告しました。木の実によるFPIESはこれまで報告例が少なく、この論文はその乏しい知見に新たな症例を加えるものです。
FPIESとは何か
FPIESは、食物を食べてから1〜4時間後に繰り返し嘔吐が起こることを主な特徴とする、IgE抗体を介さないタイプの食物アレルギーです。診断には、この嘔吐に加えて、同じ食品または別の食品を再度食べたときに同様の反応が起こること、ぐったりする(傾眠)、顔面蒼白、体温低下、血圧低下、24時間以内の下痢、点滴などの医療処置が必要になることのうち、少なくとも3つの『小基準』を満たす必要があるとされています。じんましんに使う抗ヒスタミン薬やアドレナリンはFPIESには効果がないとされ、感染症や通常のIgE性アレルギーと区別しにくいことが診断を難しくしています。また、FPIESと診断された患者のうち一部(先行研究のシステマティックレビューでは9.8%)は、原因食品に対するIgE感作(アレルギー検査で陽性反応が出る状態)を併せ持っており、これは『非典型FPIES』と呼ばれます。世界的に見ると、FPIESの原因食品として最も多いのは牛乳(オランダでも同様)で、地域によって米や魚などが多いと報告されています。
症例1:カシューナッツで起きた非典型FPIES
1人目は、湿疹と牛乳アレルギーの既往がある男児です。生後9か月時、カシューナッツバターを摂取した後に3回、繰り返す嘔吐のエピソードが確認されました。最初の2回はウイルス感染症状と重なる軽度なものでしたが、3回目は体調が良好な状態で、午前にティースプーン1杯、午後に2杯を摂取したところ、2〜3時間後に繰り返す嘔吐、顔面蒼白、ぐったりした様子が現れました(下痢はなし)。皮膚プリックテストではカシューナッツ(膨疹3.5mm)、ピスタチオ(2.5mm)、クルミ(3.5mm)、牛乳(7mm)への感作が確認されました。生後16か月時に病院でカシューナッツの経口食物負荷試験(実際に少量ずつ食べさせて反応を見る検査)を実施したところ、カシューナッツ蛋白質443mgの累積摂取から30分後に嘔吐が始まり、オンダンセトロン(吐き気止め)を複数回投与しても改善しませんでした。顔面蒼白とぐったりした様子はあったものの、皮膚や呼吸器のIgE性アレルギーを示す症状はありませんでした。ただし症状の急な出現とカシューへの感作があったことから念のため筋肉内アドレナリンと抗ヒスタミン薬も投与されましたが、それでも嘔吐は続き、最終的に点滴のデキサメタゾン(副腎皮質ステロイド)と輸液で回復しました。反応開始から3.5時間後には好中球数が2.0×10⁹/Lから13.1×10⁹/Lへ上昇していた一方、アレルギー反応の指標であるトリプターゼ値は低いままでした。この結果からカシューナッツによる非典型FPIESの診断基準を満たすと判断されました。現在は3歳近くになり、交差反応性のためカシューナッツとピスタチオを除去した食事を続けており、耐性を獲得したか確認するための再負荷試験が計画されています。
症例2:複数の食物アレルギーが重なった女児のケース
2人目は、湿疹の既往がある女児で、より複雑な経過をたどりました。生後6.5か月時のピーナッツの経口食物負荷試験では、蛋白質4,443mgの累積摂取から2時間後に、くしゃみ、鼻づまり、1回の大量嘔吐、食品が直接触れていない部位の皮膚発赤、耳の腫れという典型的なIgE性アレルギー反応(サンプソンスコアでグレード2)が現れ、IgE性ピーナッツアレルギーと診断されました。卵については、自宅での導入中に繰り返す嘔吐が2回みられ、その後、生後12か月時に病院で行った経口食物負荷試験でも、卵蛋白質4,443mgの累積摂取から30分後に嘔吐が始まり、顔面蒼白、ぐったりした様子、血圧低下、下痢が生じ、静脈内グラニセトロン(吐き気止め)や輸液、デキサメタゾンによる治療を要しました。ただしこの負荷試験当日は軽い風邪症状もあり、後に便検査でパレコウイルスも陽性となったため、感染症の影響も考慮すべき状況でした。それでも急性FPIES(卵)の診断がなされました。クルミについては、最初の負荷試験は陰性と判断されたものの、その後の自宅での再導入時や、生後15か月で行った再負荷試験(クルミ蛋白質1,443mgの累積摂取から25分後に嘔吐開始)で、繰り返す嘔吐、血圧低下、頻脈、複数回の意識消失がみられ、輸液や静脈内グラニセトロン、デキサメタゾンによる治療が必要となり、クルミへのFPIESと診断されました。クルミ特異的IgEは陰性のままでした。カシューナッツについては、病院での負荷試験は一度陰性でしたが、その後自宅でカシューナッツ7粒を果物と混ぜて食べた3時間後に繰り返す嘔吐が生じ、入院時の血液検査でカシューナッツ(0.80 kU/L)とピスタチオ(1.1 kU/L)への感作が判明し、非典型FPIES(カシューナッツ)が推定診断されました。この女児は、9か月の間に病院での3回の負荷試験と自宅での4回の摂取時に重い反応を繰り返し経験しており、家族にとって大きな精神的負担となったこと、母親がEMDR(トラウマに対する心理療法の一種)を受ける必要があったことも報告されています。現在の食事では木の実、ピーナッツ、卵は除去されていますが、乳製品、魚、肉、豆類、ごまなどの種子、松の実、多様な果物や野菜、小麦・キヌア・米などの穀物は摂取できており、除去食による栄養面(特に不飽和脂肪酸の摂取)には小児アレルギー専門の栄養士が配慮しているとのことです。
この報告から見えてくる課題と限界
著者らは、木の実によるFPIESの報告はこれまで非常に少なく、先行研究ではオーストラリアの後ろ向き研究でナッツ関連FPIES10例中9例がピーナッツ、1例がヘーゼルナッツであったこと、米国の大規模な小児コホートではナッツが原因の症例はわずか3%であったことなどを挙げています。また、木の実による症例報告としてはクルミによるFPIES(発症年齢3歳、今回とは異なる経過)が1件見つかったのみだとしています。今回の2症例では、一部の反応がウイルス感染症状と時期的に重なっており、症状が感染そのものによるものか、食物への反応との組み合わせによるものかの判断が難しかったと著者らは述べています。ウイルス感染がFPIESを誘発する『引き金』または『補助的要因』として働く可能性を示唆する仮説(腸管の免疫寛容の乱れや腸内細菌叢の変化などが関与するとする説)にも触れていますが、今回の症例だけでは感染症がFPIESの発症に関与したかどうかを結論づけることはできないと明記しています。また、アレルギーを起こしやすい食品の早期導入がFPIESの発症時期と重なる可能性についても言及していますが、大規模な前向きコホート研究ではピーナッツ誘発FPIESの頻度は0.3%程度であり、一般的な小児のFPIES頻度の推定値と同程度であったとも紹介されており、早期導入がFPIESのリスクを高めるかどうかは今後の研究が必要だとしています。著者らは、この研究の強みとして、詳細なアレルギー評価・病原体スクリーニング・複数回の標準化された経口食物負荷試験に基づいて診断が支持された点を挙げる一方、限界として、感染症や早期の食物導入がFPIESの発症にどの程度関与したかは、この2症例だけでは明らかにできないとしています。
まとめ
この症例報告は、木の実、特にカシューナッツやクルミが乳児期に重篤なFPIES反応を引き起こしうることを、2人の乳児の詳細な経過とともに示したものです。特にIgE感作を伴う『非典型FPIES』では、アドレナリンなどIgE性アレルギーの治療とFPIESに必要な支持療法(輸液や吐き気止めなど)のどちらが必要かの判断が難しく、養育者や医療者にとって対応の複雑さが浮き彫りになっています。あくまで2症例の報告であり、木の実によるFPIESの頻度や、感染症・早期食物導入との関係、経口食物負荷試験を行う適切な時期などについては、著者ら自身が『データが非常に限られている』と述べているとおり、今後のさらなる研究が必要とされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:2例の乳児における木の実による急性食物蛋白誘発性腸炎症候群:症例報告(フロンティアーズ・イン・アレルギー・2026年08月)