重度の肥満がある男性では、血液中のテストステロン濃度が低下していることがしばしば見られます。これは体組成やインスリン感受性、脂肪組織が持つホルモン分泌的な働きなど、複数の代謝因子が関係すると考えられています。今回紹介する論文は、重度肥満のある54歳男性1名について、食事パターンの変更や体重減少、そしてフェヌグリーク由来の成分であるトリゴネリンの摂取と、その間の総テストステロン値の変化を記録した症例報告です。トリゴネリンは、フェヌグリーク(Trigonella foenum-graecum)などの植物に天然に含まれるピリジンアルカロイドの一種で、代謝や細胞への作用が関心を集めているとされています。
研究でわかったこと
この患者は、約3年間にわたりGLP-1受容体作動薬による治療を受けていたと報告されています。2026年5月17日に行われたホルモン検査では、総テストステロン値は150ng/dL、遊離テストステロン値は3.53pg/mLでした。この検査後、患者はGLP-1受容体作動薬の使用を中止し、以降86日間にわたり、主に1日1食(OMAD)の食事パターンを続けました。
具体的には、ほとんどの日で1食のみを摂取し、1日2食になる日は月に約2回程度とまれでした。また、週に約2回程度、食事を摂れる時間帯(イーティングウィンドウ)を約3〜4時間に広げる日もあったとされています。
この86日間の観察期間のうち、約6週間(1か月半程度)にわたり、トリゴネリンのサプリメント摂取も行われました。摂取量は、フェヌグリーク種子エキス500mg(トリゴネリンを50%含有)と記載されています。同じ期間中、体重は約130kgから123kgへと、約7kg減少しました。
86日後に再度行われた検査では、総テストステロン値は530ng/dLまで上昇しており、この数値は検査施設が定める基準範囲(280〜800ng/dL)の中に入っていました。これは絶対値で380ng/dLの増加、割合にして約253%の増加、約3.5倍の上昇に相当すると論文では述べられています。また同じ期間中に、空腹時インスリン値の有意な低下と、炎症マーカーであるhs-CRPの顕著な低下も認められたと報告されています。
論文の著者らは、テストステロン合成が主に精巣のライディッヒ細胞で行われ、その過程にはミトコンドリアによるコレステロール輸送や酵素反応など、細胞のエネルギー代謝状態が関わっていると説明しています。トリゴネリンについては、細胞のエネルギー代謝やミトコンドリア機能、酸化バランス、代謝シグナルへの関与が指摘されており、こうした働きを通じてステロイドホルモン合成に関わる細胞環境に影響しうる可能性がある、と著者らは考察しています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、1名の患者を対象とした症例報告です。GLP-1受容体作動薬の中止、OMAD断食、約7kgの体重減少、約6週間のトリゴネリン摂取という複数の要因が同じ期間に重なって生じているため、テストステロン値の上昇がどの要因によるものか、あるいはどの程度ずつ寄与したのかを、この報告だけから切り分けることはできません。また対象が1名のみであるため、同様の変化が他の人にも同じように起こるかどうかは、この報告からは分かりません。
まとめ
重度肥満と長期のGLP-1受容体作動薬治療歴がある54歳男性において、その中止とOMAD断食、約7kgの減量、約6週間のトリゴネリン摂取を経た86日間で、総テストステロン値が150ng/dLから基準範囲内の530ng/dLへと上昇したことが報告されました。同時期に空腹時インスリン値やhs-CRP値の改善も見られたとされています。これは1例の症例報告であり、テストステロン上昇の要因を特定したり、効果を保証したりするものではない点に留意が必要です。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:主にOMAD断食、減量、および約6週間のトリゴネリン摂取による86日間での総テストステロン値150から530ng/dLへの著明な回復(インターナショナル・ジャーナル・フォー・マルチディシプリナリー・リサーチ・2026年08月)