この研究は、クロアチアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Technology and Biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ植物たんぱく質の足場が注目されるのか

培養肉は、動物から採った細胞を培養して肉を作る技術です。研究チームによると、その生産には動物由来の細胞、細胞を育てる培養液、立体的な「足場」、そして規模を大きくできる製造工程の四つが欠かせません。

足場は細胞が貼り付き、増え、筋肉らしい組織へ育つための立体的な骨組みです。最終的には肉らしい構造や食感にも関わります。これまではゼラチンやコラーゲンなど動物由来の材料が広く使われてきました。しかし著者らは、倫理面の懸念、製造ロットごとのばらつき、汚染の危険、コストの高さ、大量生産の難しさといった課題を挙げ、動物に頼らない材料が必要だと指摘しています。

この総説は、トウモロコシ、エンドウ豆、大豆、小麦など主要な農作物から得られるたんぱく質を足場の材料として使う研究を集めて比較したものです。著者らは、植物由来のたんぱく質材料だけに焦点を絞った総説は、知る限りこれまでなかったと述べています。

どのように文献を調べ、何を整理したか

研究チームは、Scopus、Web of Science、PubMed、Google Scholarといった論文データベースを使いました。主に過去5年ほどの研究を対象に、「培養肉」と「足場」「たんぱく質」「豆類」「穀物」などの語を組み合わせて検索しています。そのうえで、材料の物理化学的な性質、細胞との相性、加工のしやすさに関わる研究を選びました。

まず原料となるたんぱく質の違いが整理されています。小麦やトウモロコシなどの穀物はたんぱく質の含有量が5〜15%と比較的低いものの、加工しやすい性質があるため広く使われています。一方、大豆やエンドウ豆などの豆類はたんぱく質を15〜30%含み、必須アミノ酸のバランスも比較的よいとされます。論文によれば、原料からたんぱく質を取り出して精製すると含有量は大きく上がります。トウモロコシのたんぱく質分離物では78〜87%、エンドウ豆では68〜90%、小麦では55〜72%に達するといいます。また、油を搾った後のナタネやヒマワリの種の残りかすはたんぱく質が豊富ですが、培養肉の足場としてはまだ検討されていないと著者らは指摘しています。

足場の作り方としては、さまざまな手法が紹介されています。たんぱく質の溶液を型に流して凍結乾燥し、スポンジ状にする方法があります。高電圧で極細の繊維を紡ぐ電界紡糸もそのひとつです。さらに、3Dプリンターで形を造形する方法、熱と圧力で繊維状の組織にする押出成形(大豆ミートなどに使われる加工)、培養槽の中で細胞を付着させる微小な粒子「マイクロキャリア」なども取り上げられています。

報告されている主な研究例

トウモロコシの主要なたんぱく質であるゼインは、水をはじく性質が強く、繊維を作りやすいため、電界紡糸の研究でよく使われています。ある研究では、アルギン酸の繊維をゼインで覆うと強度が高まり、ゼインの割合は30%が最適とされました。この繊維の上では、ウシの筋肉のもとになる衛星細胞に加え、脂肪や血管に関わる細胞も、それぞれ付着して増え、分化することが報告されています。別の研究では、ゼインに褐藻由来の多糖フコイダンを組み合わせることで、筋肉のもとになる培養細胞の付着率が44%から81%に高まったとされています。

エンドウ豆のたんぱく質は、アレルギーを起こしにくく、安価なことが利点として挙げられています。3Dプリント用のインクに加えると、形を保ちやすくなる働きをします。植物に含まれるポリフェノールの一種であるタンニン酸で固めた足場では強度が向上し、食感の指標は通常の肉や代替肉に近い値を示したと報告されています。ただし、その上で育てた細胞は一定の向きにそろわず、筋肉らしい配列を作るには課題が残ることも紹介されています。

大豆のたんぱく質には、細胞の接着に関わるアミノ酸の配列(RGD配列)が含まれています。押出成形で作った大豆の足場は、食べられて多孔質であり、立体的な組織の形成を支え、肉のような食感を持つものとして紹介されています。また、酵素(トランスグルタミナーゼ)と塩化カルシウムを用いて凍結乾燥で作った大豆たんぱく質の足場では、細胞の付着を助ける成分を別に加える必要がなかったと報告されています。

この総説が示すこと

著者らは、植物たんぱく質は単独では強度や構造の安定性、細胞の接着性が不足しやすいと指摘しています。そのためアルギン酸やキトサンなど食品に使える他の材料と組み合わせる工夫が多く行われていることを整理しました。あわせて、筋肉細胞の付着・増殖・分化をよりよく支える足場づくり、結果の再現性、大規模生産への対応を今後の課題として挙げています。

この総説は、身近な農作物のたんぱく質が、培養肉の「骨組み」という新しい役割を担いうることを、多くの研究例から示しています。著者らは、植物たんぱく質の材料が、環境負荷や動物由来成分への依存を減らしながら培養肉の生産を支える大きな可能性を持つとまとめています。

著者:Igor Slivac(University of Zagreb)、Matija Maltarski(University of Zagreb)、Kristina Radošević(University of Zagreb)、Višnja Gaurina Srček(University of Zagreb)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Igor Slivac, Matija Maltarski, Kristina Radošević, et al. Plant Protein-Based Scaffolds for Cultivated Meat Production: A Review. Food Technology and Biotechnology 2026-10-06. DOI: 10.17113/ftb.64.03.26.9627. 原著ライセンス:CC BY.