肉料理の材料として世界各地で親しまれているヤギ肉。しかし家畜が育つ環境によっては、土壌や飼料に含まれる重金属が体内に蓄積し、それを食べる人の健康に影響を及ぼす可能性が指摘されています。今回紹介する研究は、ナイジェリアで飼育される「在来種」と「北部種」という2種類のヤギ品種を対象に、その肉や内臓に含まれる重金属濃度を調べ、食べることによる健康リスクを評価したものです。
身近な食材に潜む見えないリスクを、科学的な数値で確認しようとする試みとして興味深い内容です。
研究でわかったこと
研究チームは、ナイジェリア・エド州ベニンシティにあるオリハ市場とアドゥワワ市場で、在来種と北部種のヤギを入手しました。それぞれの腎臓・肝臓・筋肉という3つの組織を採取し、原子吸光分光法という手法を用いて、亜鉛(Zn)・カドミウム(Cd)・鉛(Pb)という3種類の重金属の濃度を測定しています。
結果として、いずれの組織でも亜鉛の濃度が最も高いことが示されました。特に在来種の筋肉で最も高い蓄積量(1.4±0.28 mg/kg)が確認された一方、在来種の腎臓では最も低い値(0.2±0.141 mg/kg)が見られたと報告されています。一方、カドミウムと鉛については、多くの組織で検出限界を下回っており、特に北部種でその傾向が強かったとされています。
測定されたすべての重金属濃度は、人が食べる上での許容限度内であったと報告されています。さらに健康リスクの指標である「ターゲットハザード指数(THQ)」を算出したところ、在来種で0.00694、北部種で0.00361という値が得られ、いずれも非発がん性リスクは認められないことが示されました。
ただし、発がんリスクを示す指標(CR)については、在来種のカドミウムで2.04×10⁻⁵、鉛で4.82×10⁻⁸という値が得られています。これらは推奨される許容基準(10⁻⁴)を下回るものの、在来種の重金属濃度の存在から、在来種のヤギ肉摂取に伴う発がんリスクについては留意が必要であることが示唆されています。
総合的には、北部種・在来種いずれのヤギ肉についても、摂取による健康リスクは最小限であると結論づけられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の2つの市場から入手したヤギを対象とした調査であり、ナイジェリア国内の全てのヤギや、他の地域・国の家畜に当てはめて考えられるものではありません。また、重金属濃度は飼育環境や飼料などの条件によっても変動しうるため、一つの研究結果として捉えることが大切です。
論文の著者らも、家畜における重金属の定期的なモニタリングや、在来種・輸入種双方を対象としたさらなる研究の必要性を指摘しており、食品安全の観点から継続的な調査が望まれるとしています。
まとめ
今回の研究では、ナイジェリアの在来種・北部種ヤギの腎臓・肝臓・筋肉に含まれる亜鉛・カドミウム・鉛の濃度が調べられ、いずれも許容限度内であり、非発がん性リスクは低いと評価されました。一方で、在来種ではカドミウムと鉛による発がんリスクの指標がわずかに検出されており、著者らは継続的なモニタリングの重要性を述べています。食の安全を支える基礎データとして、今後の追加調査の動向が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:在来種および北部種ヤギ品種における重金属濃度と食用摂取による健康リスク(アフリカン・ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・サイエンス・アンド・フード・リサーチ・2026年07月)