著者の所属・活動拠点の国は、メキシコ、エチオピア、アメリカ、オーストラリアです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
茎さび病は、カビの仲間である病原菌が小麦の茎や葉に感染する病気で、収量を大きく減らすことがあります。研究チームは、地上の物体を1メートル前後かそれより細かく写せる「超高解像度衛星」の画像を使い、品種ごとに区切った小さな試験区画(プロット)の単位で、この病気を早い段階から見つけて経過を追えるかを調べました。あわせて、品種ごとの病気へのかかりやすさを画像から評価する「フェノタイピング」(作物の性質を測って比べること)に使えるかも検討しました。
著者らのいう「早期検出」は、症状が出る前の発見ではありません。症状が現れた後、感染の程度がまだ低い段階で病気を見つけ、経過を追うことを指しています。
どのように調べたか
実験は、エチオピア中部高地にあるデブレ・ゼイト農業研究センターで、2023年2月から5月に行われました。雨季は茎さび病が自然に広がりやすく、衛星撮影も雲に妨げられやすいため、乾季に実施しています。
茎さび病へのかかりやすさが異なるパンコムギ6品種を植え、灌水の仕方だけが異なる2つの試験を設けました。各試験は、殺菌剤で病気を抑えた区画と抑えない区画に分け、品種ごとに3反復ずつ、計36区画で構成されています。茎さび病菌は人為的に接種しました。
研究者は畑で、病気の広がりの程度や、感染した株の割合、植物側の反応の型を目で見て記録し、そこから病気の指標を計算しました。同じ時期に、2種類の商用超高解像度衛星「SkySat」と「Pleiades-Neo」で区画を撮影しました。画像からは、青・緑・赤・近赤外などの光の波長帯ごとの反射の強さと、2つの波長帯の反射を比や差で組み合わせた指標を区画ごとに求めました。こうした特徴量はSkySatで37種類、Pleiades-Neoで76種類にのぼります。これらと目視による病気の評価がどれだけ連動するかを、相関分析で調べました。
なお、ある品種は別の病気である黄さび病に強くかかったため、病気の影響が混ざらないよう解析から除外しました。そのため、相関分析は試験ごとに、病気を抑えなかった15区画で行われています。
主な結果
目視による評価では、品種の反応はこれまでの報告どおりでした。最もかかりやすい品種「Hidase」では病気が急速に進み、最もかかりにくい品種「Shorima」では進行が最も遅くなりました。灌水の多かった試験1では、試験2より病気の進行が速く、強くなりました。接種から44日目には、病気を抑えなかった全品種で茎さび病の感染率が100%に達しました。著者らは、病気の圧力が非常に強い条件で、収量の減少が中程度にかかりやすい品種で48〜56%、かかりやすい品種で最大93%に達したと報告しています。
衛星画像の解析では、どちらの衛星でも複数の特徴量が目視による病気の評価と中程度から強い相関を示しました。例外は、病気がまだほとんど出ていなかった試験2の接種17日目と、試験2の接種44日目のSkySatです。後者について著者らは、SkySatが捉えられる波長の種類が限られていることが原因である可能性が高いとしています。同じ試験2の接種44日目でも、Pleiades-NeoはSkySatにない濃い青の波長帯で非常に有意な相関を示しました。
病気が軽い段階からかなり進んだ段階までは、可視光の青から濃い青にかけての波長帯を使った特徴量が特に重要でした。区画全体が病気に覆われた段階では、両衛星とも赤と緑の組み合わせなどで相関が見られ、Pleiades-Neoでは赤と青、赤と濃い青の組み合わせがそれを上回りました。Pleiades-Neoは、濃い青や「レッドエッジ」と呼ばれる波長帯を使った特徴量で、病気がかなり進んだ段階に強い相関を示しました。
中程度に病気が進んだ段階では、青と緑を組み合わせた指標が、病気の指標・試験・衛星の違いを問わず一貫して強い相関(相関係数の絶対値0.62〜0.66)を示しました。著者らは、この段階が早期の検出と経過観察、そして時機を逃さない防除にとって好ましい時期だと結論づけています。
SkySatの特徴量について、シーズン全体の病気の進み具合をまとめた値との関係を調べたところ、青の波長帯にもとづく特徴量だけが有意な相関を示しました。一方、衛星の特徴量と収量との間には有意な関係が見られませんでした。著者らはその理由として、収量の減り方が葉の色や反射に直接は現れない仕組みで決まることや、撮影が実の充実期の前に終わっていたことを挙げています。
研究が示すこと
この研究は、市販の超高解像度衛星の画像が、品種ごとの小さな区画の単位で茎さび病の発生と進行をとらえうることを示しました。どの波長帯の組み合わせが病気のどの段階で手がかりになるかも具体的に示しています。2つの衛星については、SkySatは単純な青色系の指標で病気の段階を通して安定した感度を示し、撮影頻度も高いこと、Pleiades-Neoは波長帯が多く進行した被害の判別に強いことという、互いを補う長所があると著者らは述べています。
一方で、著者らはこの研究を1地点・1シーズン・少数の区画で行った探索的な解析と位置づけています。示された相関は病気を予測する性能の証拠ではなく、別の環境や年でも成り立つかは確かめられていないと強調しています。
原著論文の著者・所属:Gerald Blasch(Centro Internacional de Mejoramiento de Maíz Y Trigo, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center)、Ashenafi Gemechu(Ethiopian Institute of Agricultural Research)、Gizachew Hirpa Regasa(Centro Internacional de Mejoramiento de Maíz Y Trigo, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center)、Yoseph Alemayehu(Centro Internacional de Mejoramiento de Maíz Y Trigo, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center)、Adama Ndour(United States Department of Agriculture)、Pablo Olivera Firpo(The University of Queensland)、Andries Potgieter(Centro Internacional de Mejoramiento de Maíz Y Trigo, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center, International Maize and Wheat Improvement Center)、David P. Hodson
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gerald Blasch, Ashenafi Gemechu, Gizachew Hirpa Regasa, et al. The capability of very high-resolution satellite imagery for plot-level early wheat stem rust disease detection, monitoring, and phenotyping in Ethiopia. Scientific Reports 2026-10-28. DOI: 10.1038/s41598-026-77529-y. 原著ライセンス:CC BY.