著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。

掲載誌:Veterinary World

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

肉牛の改良では、体重や肉質を実際に測って優れた牛を選ぶ方法に、手間がかかる、評価に時間がかかる、飼育条件に左右されるといった制約があります。そのため、DNA上の特定の違い(遺伝子マーカー)を手がかりに、肉用として有利な牛を早い段階で見分ける「マーカーアシスト選抜」が注目されています。

この研究で研究チームが着目したのは、成長ホルモン(GH)遺伝子にあるc.2141C>Gという一塩基の違いです。この違いによって、成長ホルモンを構成するアミノ酸の一つがロイシン(L)からバリン(V)に置き換わります。そのため、この型はL/Vとも呼ばれます。著者らは、ロシアの肉牛品種であるカルムイク種の雄子牛を対象に、この遺伝子型の違いが発育、と畜時の体の特徴(と畜形質)、牛肉の成分とどう関連するかを調べました。

何を調べたか

研究チームは、カルムイク種の雄子牛50頭の血液から遺伝子型を調べました。その結果、37頭は両方の遺伝子がL型のLL型、13頭はL型とV型を一つずつ持つLV型でした。両方がV型のVV型は見つかりませんでした。集団全体でみたV型の割合は13%と低く、論文はVV型がいなかったこともこの低さと整合すると述べています。

子牛は、餌や飼育環境をそろえた条件で、8か月齢から15か月齢まで観察されました。この間、体重と1日あたりの増体量を記録しました。15か月齢の時点で、各遺伝子型から8頭ずつをと畜し、枝肉重量(頭部や内臓などを除いた肉の重さ)、内臓周りの脂肪の重さ、枝肉歩留まり(生体重に対する枝肉重量の割合)を評価しました。あわせて、背中の筋肉の水分、タンパク質、脂肪、灰分(ミネラル分)、アミノ酸組成を分析しました。

測定や分析の担当者には、どの牛がどの遺伝子型かを知らせずに作業してもらいました。統計解析では、多くの項目を比べるときに偶然の差を見誤らないよう補正を加えています。さらに、差の大きさを示す指標(効果量)も併せて示しました。

主な結果

発育では、LV型の子牛がLL型より体重が重い傾向が見られました。差は8か月齢で4.45kg、12か月齢で20.5kg、15か月齢で25.9kgでした。1日あたりの増体量も、評価した期間を通じて5.1〜11.5%高くなっていました。ただし、統計的な補正を行うと、これらの差はいずれも有意ではありませんでした。

と畜形質では、はっきりした違いが報告されています。LV型はLL型に比べて、枝肉重量と内臓周りの脂肪の重さが統計的に有意に大きく、効果量も大きいとされました。一方、枝肉歩留まりには遺伝子型による有意な差はありませんでした。

牛肉の成分でも、遺伝子型による有意な差が見られました。LV型の肉はLL型より、タンパク質が平均1.01%、灰分が0.23%多く含まれていました。反対に、LL型の肉は脂肪が0.50%、水分が0.40%多い結果でした。アミノ酸については、必須アミノ酸の量などでLV型がやや高い数値を示しました。しかし、補正後はいずれも統計的に有意な差ではなく、著者らは数値上の違いにとどまるとしています。

研究が示すこと

著者らは、カルムイク種の雄子牛では、この成長ホルモン遺伝子の違いが、体重の伸び方よりも、と畜時の枝肉の特徴や牛肉の成分とより強く関連していたとまとめています。これらはいずれも遺伝子型と特徴との関連を示したもので、遺伝子の違いが直接の原因であると確かめたものではありません。

論文は、品種ごとの遺伝子マーカーの知見を広げる成果として、この遺伝子の違いを選抜の手がかりとしてさらに評価することを支持しています。一方で、肉質を調べた牛が各型8頭と少ないこと、VV型を評価できなかったこと、単一の品種と飼育環境での結果であることを限界に挙げています。そのうえで、日常的な育種判断に推奨するには、より大規模な検証が必要だと述べています。

原著論文の著者・所属:Nadezhda Chimidova(Kalmyk State University)、Natalia Revutskaya(Department of Scientific, Applied and Technological Developments, V.M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems of RAS, 26, Talalilhin str., 109316, Moscow, Russian Federation)、Anastasia Semenova(Department of Scientific, Applied and Technological Developments, V.M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems of RAS, 26, Talalilhin str., 109316, Moscow, Russian Federation)、Victoria Ubushieva(Kalmyk State University)、Vasilii Manzhiev(Kalmyk State University)、Arslang Khakhlinov(Kalmyk State University)、Altana Ubushieva(Kalmyk State University)、Zanda Bochkaeva(Kalmyk State University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nadezhda Chimidova, Natalia Revutskaya, Anastasia Semenova, et al. Association of the growth hormone c.2141C>G polymorphism with growth performance, slaughter traits, and meat quality in Kalmyk bull calves. Veterinary World 2026-09-11. DOI: 10.14202/vetworld.2026.3961-3975. 原著ライセンス:CC BY.