紅麹(べにこうじ)は、米などをMonascus属のカビで発酵させて作られる、東アジアで古くから食品や調味料の色付けなどに利用されてきた発酵素材です。発酵の過程でさまざまな二次代謝産物が生み出されることが知られており、近年ではその水溶性成分が肥満や体重過多に対する代替的なアプローチとして注目され始めています。今回紹介する研究は、この紅麹米の水抽出物が、脂肪細胞の中で脂肪がどのように蓄積されるかに影響を与えるかどうかを、細胞レベルで調べたものです。

この研究では、Monascus pilosus NBRC4507という菌株を使って発酵させた紅麹米から、ロバスタチンとシトリニンを含まない水抽出物を用意しました。これを、脂肪細胞のモデルとしてよく使われる3T3-L1細胞という培養細胞に処理し、脂質の蓄積にどのような変化が起きるかを観察しています。その結果、この抽出物を処理した細胞では、細胞内の中性脂肪(トリグリセリド)の量と、脂肪合成に関わる酵素であるグリセロール-3-リン酸脱水素酵素の活性が、どちらも顕著に低下したと報告されています。また、中性脂肪の量とグリセロールの放出量との間には強い負の相関関係が見られ、これは脂肪を分解する働き(脂肪分解)が高まっていることを示すものだとされています。さらに、脂肪細胞の分化や脂肪蓄積を進める中心的な転写因子であるPPARγおよびC/EBPαの発現量が、抽出物の濃度が高くなるほど低下する、いわゆる濃度依存的な変化を示したことも確認されました。これらの結果から、研究チームは、紅麹米の水溶性成分が脂肪の合成を抑えつつ分解を促すことで、抗脂肪生成的な働きを示す可能性があり、これは複数の生理活性を持つ二次代謝産物が組み合わさって作用している可能性が考えられる、と述べています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、培養した脂肪細胞を用いた実験に基づくものであり、ヒトの体内で同様の効果が得られるかどうかを直接示したものではありません。また、紅麹をめぐっては、成分や製品によって安全性に関する注意が必要な場合があることも知られています。今回の研究で使われた抽出物はロバスタチンとシトリニンを含まないものが用いられていますが、これは実験デザイン上の条件であり、市販の紅麹関連製品すべてに当てはまる話ではありません。今回の内容はあくまで一つの基礎研究の結果であり、これをもって紅麹米の摂取が肥満対策として有効であると確定づけるものではない点に留意が必要です。

まとめ

今回紹介した研究では、紅麹米から得られた水抽出物を脂肪細胞に処理したところ、中性脂肪の蓄積が抑えられ、脂肪の分解に関わる活性が高まる様子が観察されました。また、脂肪細胞の形成に関わる転写因子であるPPARγとC/EBPαの発現が、濃度依存的に低下することも示されています。これらの結果は、紅麹米に含まれる水溶性の成分が脂質代謝に何らかの影響を及ぼす可能性を示唆するものですが、細胞実験の段階の知見であり、今後さらなる研究による検証が必要とされる分野だと言えるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:紅麹米の水抽出物はPPARγおよびC/EBPα転写因子の発現を低下させることで3T3-L1脂肪細胞の脂質蓄積を抑制する(セイロン・ジャーナル・オブ・サイエンス・2026年07月)