果物や野菜に含まれるポリフェノールは、発酵という加工プロセスを経ることで組成が変化することが知られています。乳酸発酵によって植物由来の食品中のポリフェノール組成が変わることは分かっていますが、その組成の変化が実際にどのような機能的な効果につながるのかは、これまで十分に明らかにされていませんでした。今回紹介する研究は、南米などに自生する低木の果実「ムルタ(Ugni molinae Turcz)」のジュースを乳酸発酵させ、その成分変化と複数の生理機能との関連を詳しく調べたものです。

研究チームは、ムルタジュースをLactobacillus acidophilusとLactiplantibacillus plantarumという2種の乳酸菌、そしてこの2種を1対1で混合したコカルチャーの、合計3通りの条件で発酵させました。さらに発酵の方法として、GDFとSAWという2種類の最適化された手法を用いています。発酵後のジュースは、「抽出可能画分(EP)」と「加水分解性画分(HP)」という2つの成分画分に分けて分析されました。

研究でわかったこと

主成分分析という統計手法を用いて発酵の有無によるジュースの組成を比較したところ、発酵させたサンプルと発酵させていないサンプルは明確に分かれ、その違いは全体のばらつきの89.7%を説明するものだったと報告されています。とりわけ、2種の乳酸菌を混合してGDF法で発酵させた「MIX-GDF」という条件が、成分組成の面でもっとも際立った特徴を示したとされています。

機能性については、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗菌活性、糖質を分解する酵素であるα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼの阻害活性、血糖調節に関わるDPP-IVという酵素の阻害活性、そしてヒト由来の培養細胞(Caco-2細胞)における酸化ストレスの調節作用という、3つの軸で評価が行われました。その結果、抽出可能画分(EP)は抗菌活性とα-グルコシダーゼ阻害に強く関わっており、一方で加水分解性画分(HP)はDPP-IV阻害と細胞内の活性酸素種(ROS)の調節により大きく寄与していることが示されたとされています。

さらに、成分と生理活性の関係を網目状に表す「二部相関ネットワーク」という解析手法を用いたところ、興味深い構造が浮かび上がりました。酵素阻害については特定のフラボノイド成分と生理活性の間に個別の対応関係が見られた一方、抗菌活性については多数の成分が広く関わり合う、より複合的な相互作用によって生じていることが示唆されたということです。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、発酵によってポリフェノールの組成が再構成されることが、機能性においても構造的な違いを生み出しうることを示すものとして位置づけられます。ただし、これは培養細胞や酵素阻害試験など実験室レベルでの評価に基づくものであり、ムルタジュースを摂取した人の健康にどのような影響が生じるかを直接示したものではない点には注意が必要です。あくまで一つの研究であり、発酵条件と機能性の関係についての結論が確定したわけではありません。

研究チームは、こうした知見が、特定の生理活性プロファイルを狙って発酵戦略を設計するための合理的な根拠になりうるとしています。

まとめ

今回の研究は、ムルタベリージュースを異なる乳酸菌・発酵方法で処理した際に、ポリフェノール組成の変化がどのように抗菌活性、糖質分解酵素阻害、酸化ストレス調節といった機能に結びつくかを、成分と生理活性のネットワーク解析を通じて調べたものです。抽出可能画分と加水分解性画分がそれぞれ異なる機能に寄与するという結果は、発酵によって食品の機能性を意図的にデザインする可能性を考えるうえで、興味深い手がかりを与えるものといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:フェノール成分と生理活性の連関ネットワークが明らかにする乳酸発酵によるムルタベリージュース機能の再構築(アンチオキシダンツ・2026年07月)