著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、カナダです。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文掲載ページ

研究の目的

著者らは、米国の水産加工業の歴史を通じて、水産物が食卓に届く仕組みがどのように形づくられてきたかを検討しました。漁獲や消費に比べ、加工の現場やそこで働く人々は、政策や研究、一般的な漁業のイメージの中で見落とされがちだと指摘しています。

研究の中心にあるのは、なぜ現在のような加工の仕組みになったのか、その仕組みが誰に利益をもたらし、誰を不利にしてきたのかという問いです。加工の歴史を、労働条件や、安全で健康的な水産物を得られる機会、地域の人々が自分たちの食のあり方を決める「食料主権」と結びつけて考察しています。

何を、どのように調べたか

著者らは、既存研究の広がりを把握するスコーピングレビューを行いました。社会科学分野のデータベースで、魚・水産物、缶詰、歴史、米国、人種に関する語を組み合わせて文献を検索しました。さらに、文献の引用元や米国海洋大気庁などのオンラインデータベースをたどり、歴史資料を補いました。

対象をカキ、マグロ、サケ、イワシの加工業に絞り、とくに缶詰産業の発展を検討しました。個別の加工技術の性能を比べるのではなく、企業の成長、政府の政策、戦争、移民労働、人種や性別による格差が、加工業と水産物の流通をどう形づくったかを歴史的に読み解いています。

主な報告結果

著者らは、米国の工業的な水産加工が、地域の食を支える営みとしてだけでなく、企業家が利益を得る事業として発展したと論じています。加工業を始めた人々には漁業経験や進出先の地域とのつながりが乏しい人も多く、その成長は、交通・通信網の拡大や移民の増加、起業による富の獲得を重視する当時の社会状況と結びついていたと整理しました。

戦争による缶詰需要の増加も、産業の拡大を後押ししたと報告しています。論文が引用した歴史研究によると、第一次世界大戦期の1915~1917年に、マグロの缶詰工場は数か所から44か所へ増え、同じ期間の水揚げ量は2,000トンから71,000トンへ増加しました。政府による消費促進や、生産能力を高める技術研究への資金投入も、この拡大に関わっていました。

一方、加工業の成長は、労働者に等しく利益をもたらしたわけではないと著者らは指摘しています。カキの缶詰生産では、機械化によって主に女性、子ども、移民が担った詰め込み作業で必要とされる技能が低下する一方、より熟練を要する缶のふたを閉じる仕事から女性が排除されました。サケの缶詰産業では、中国系、日本系、先住民の労働者への依存が強まり、著者らは、こうした発展の中で人種や性別によって働き方や待遇が分かれる契約労働の仕組みが定着したと論じています。

この報告が示すこと

著者らが示すのは、水産加工を単なる技術的な工程ではなく、人々の働き方や地域の食へのアクセスを左右する仕組みとして捉える必要性です。水産業の価値を市場での価格や企業利益だけで測るのではなく、人々、海、環境の健やかさを優先する考え方へ転換すべきだと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Christine Knott(Department of Women, Gender and Sexuality Studies, San Diego State University, San Diego, CA, United States)、Christine Knott(Department of Sociology, Wilfrid Laurier University, Waterloo, ON, Canada)、Leah M. Fusco(Department of Political Science, Memorial University, St. John’s, NL, Canada)、Liliana Sierra Castillo(Department of Marine Affairs, University of Rhode Island, Kingston, RI, United States)、Marta Maria Maldonado(Department of Ethnic Studies, Oregon State University, Corvallis, OR, United States)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Christine Knott, Christine Knott, Leah M. Fusco, et al. Seafood processing: a vital yet overlooked aspect of seafood systems. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-11-01. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1920963. 原著ライセンス:CC BY.