大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は年々上昇を続けており、農作物の生育に影響を与えることが知られています。CO2は植物の光合成の材料であるため、濃度が上がると収量が増えるという報告は以前からありますが、収穫される種子の中身、とくに油の量や質までが同じように変わるのかどうかは、長期的なデータが少なく、はっきりしていませんでした。今回紹介する研究は、この疑問にダイズを対象として取り組んだものです。
研究チームは、中国科学院東北地理与生態研究所などに所属する研究者らで構成されています。オープントップチャンバーと呼ばれる、上部が開いた透明な装置を畑に設置してチャンバー内のCO2濃度を人工的に高め、実際の屋外環境に近い条件で4年間にわたり2種類のダイズ品種を栽培する実験を行いました。1年だけの実験では気候条件のばらつきの影響を受けやすいため、複数年繰り返すことで、CO2上昇の影響がどれだけ安定して現れるかを確かめようとした点がこの研究の特徴です。
4年間の実験でわかったこと
まず種子の収量については、CO2濃度を高めた条件で栽培した区画は、通常のCO2濃度の区画と比べて18〜54%増加し、4年間の平均では31%の増加が確認されました。年によって増加幅にばらつきはあるものの、4年通じて収量が増えるという傾向は一貫していたと報告されています。
一方、種子に含まれる粗油(精製前の油分)の含有量については、収量のように一貫した増加は見られなかったとされています。CO2が増えれば油の量も比例して増えるという単純な関係ではないことがうかがえます。
種子油を構成する脂肪酸の内訳を見ると、どの条件でもリノール酸が最も多く、次いでオレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、ステアリン酸という順序は変わらなかったと報告されています。つまり、ダイズ油の基本的な脂肪酸組成そのものはCO2濃度が上がっても保たれていたことになります。ただし、その内訳の比率には変化が見られ、CO2濃度が高い条件では飽和脂肪酸の割合が全体として減少し、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比(UFA/SFA比)が上昇する傾向が確認されました。これに対し、オレイン酸とリノール酸の比率、およびω-6系脂肪酸とω-3系脂肪酸の比率については、品種や年によって変動の仕方が大きく異なり、一定の方向性を見いだすことは難しかったとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、オープントップチャンバーを用いた実験圃場での4年間のデータに基づくものであり、対象は2種類のダイズ品種に限られています。収量が増える一方で油の組成が品種や年によって異なる動き方をするという結果は、CO2濃度の上昇がダイズの実りに与える影響が、量と質で必ずしも同じ方向に働くわけではないことを示しています。著者らは、将来的なCO2濃度の上昇がダイズの生産性を高める可能性がある一方で、油の組成や品質に関わる特性には複雑で品目ごとに異なる変化をもたらしうると述べています。栽培環境や品種が異なれば結果も変わりうるため、この一つの研究結果だけでダイズ油の将来像が確定したと捉えるべきではありません。
まとめ
4年間にわたる屋外実験の結果、大気中のCO2濃度の上昇はダイズの種子収量を安定的に増加させる一方、油の含有量には一貫した変化をもたらさず、脂肪酸組成については飽和脂肪酸の減少や不飽和脂肪酸比の上昇といった傾向が見られつつも、品種や年による違いが大きいことが示されました。気候変動下での作物の収量と品質の両面を評価するうえで、複数年・複数品種にわたる継続的な観察の重要性を示す研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yan Wang, Jinyuan Zhang, Zhenhua Yu, et al. Four-year elevated atmospheric CO2 increases soybean seed yield and reshapes fatty acid composition without consistently altering crude oil content. プラント・フィジオロジー・アンド・バイオケミストリー (2026). DOI: 10.1016/j.plaphy.2026.111664. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.