著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。
掲載誌:Measurement Food
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
東南アジアで食用にされるナス科の果実「テルンアサム(Terung Asam、学名 Solanum lasiocarpum Dunal.)」は、収穫後に常温で保存されると徐々に色や硬さが変わっていきます。こうした品質劣化は、どの食材にも起こる現象ですが、いつどれくらいのペースで進むのかを数値で予測できれば、保存期間の目安づくりや流通管理に役立ちます。マレーシア・サラワク大学とプトラ大学、マレーシア農業省の研究者らによるこの研究は、テルンアサムの品質変化を「速度論モデル」という数式で表現し、劣化の進み方を定量的に説明しようとしたものです。
28日間、何を測り続けたのか
研究チームはテルンアサムの果実を常温で28日間保存し、0日目・7日目・14日目・21日目・28日目の5つのタイミングで品質を測定しました。調べた項目は、果皮の色(明度L*、彩度C*、色相角h*)、可溶性固形分(糖などの含有量の指標)、生重量の減少(水分が抜けて軽くなる度合い)、果実の硬さ、葉緑素の総量、pH(酸性・アルカリ性の度合い)と幅広く、さらに果皮の細胞構造を顕微鏡画像で観察しています。
劣化のスピードには「一定ペース」と「だんだん緩やかに」の2パターン
数値の変化を数式に当てはめたところ、硬さ・生重量の減少・葉緑素の総量は「ゼロ次反応速度モデル」という、時間が経ってもほぼ一定のペースで変化が進むタイプの式によく合致しました(当てはまりの良さを示すR²値はそれぞれ0.986、0.988、0.998と高い数値)。一方、果皮の色相角(h*、色の種類を表す指標)は「一次反応速度モデル」という、変化の速さが残っている量に応じて徐々に緩やかになっていくタイプの式に近い結果でした(R²値は0.829)。研究チームは、この色の変化が果皮に残っている色素の量に左右されていると説明しています。
あわせて行った顕微鏡による画像解析では、保存が進むにつれて細胞壁が緩んだり、細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアや、光合成にかかわる葉緑体が崩れたり、気孔(果皮表面にある小さな穴)の形が変わったりする様子が確認されました。これらは老化に伴って植物の細胞に一般的に見られる変化として位置づけられています。
この研究の見方と限界
この研究は、テルンアサムという一つの果実を、常温保存という一つの条件のもとで観察したものです。得られた速度論モデルは、あくまでこの実験条件での品質変化の傾向を数式化したものであり、保存温度や湿度、品種、収穫時期が異なれば結果も変わりうる点には注意が必要です。研究チームは、こうしたモデルを収穫後の品質劣化速度の予測や、保存可能期間の推定、保存管理の戦略づくりに応用できる可能性を示していますが、これは一つの研究成果であり、実際の流通現場での有効性が確立されたと断定するものではありません。
まとめ
今回の研究では、テルンアサムを28日間常温保存する中で、硬さ・重量減少・葉緑素量が一定のペースで変化する一方、果皮の色合いは残存する色素量に応じて変化が緩やかになっていくことが示唆されました。あわせて、細胞レベルでも老化に伴う構造変化が観察されています。こうした数式によるモデル化は、果実の品質劣化を客観的な数値で捉える手がかりとして報告されているものであり、今後さらに条件を変えた検証が積み重ねられることが期待されます。
原著論文の著者・所属:Sophia Ann Suring(Faculty of Resource Science and Technology, Universiti Malaysia Sarawak, 94300 Kota Samarahan, Sarawak, Malaysia)、Bernard Maringgal(Faculty of Resource Science and Technology, Universiti Malaysia Sarawak, 94300 Kota Samarahan, Sarawak, Malaysia)、Norhashila Hashim(Department of Biological and Agricultural Engineering, Faculty of Engineering, Universiti Putra Malaysia, 43400 UPM Serdang, Selangor, Malaysia)、N. Zulkifli(Department of Agriculture Malaysia, 62624 Putrajaya, Malaysia)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Sophia Ann Suring, Bernard Maringgal, Norhashila Hashim, et al. Modelling the kinetics of physicochemical changes in Terung Asam (Solanum lasiocarpum Dunal.) during storage. メジャーメント・フード (2026). DOI: 10.1016/j.meafoo.2026.100316. 原著ライセンス: cc-by.