著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Animals
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
産卵鶏は、厚さ0.3〜0.4ミリほどの卵殻をおよそ18〜20時間でつくり上げます。卵殻の主成分は炭酸カルシウムの結晶の一種である方解石(カルサイト)です。一方、殻のいちばん外側を覆う薄い膜「クチクラ」には、骨の主成分と同じ仲間のリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)の微粒子があることが以前から報告されてきました。しかし、このリン酸カルシウムが殻づくりにどう関わるのかは、よく分かっていませんでした。
研究チームは、ハイドロキシアパタイトが卵殻の形成に関わり、方解石ができはじめる初期の段階と結びついているという仮説を立てました。そのうえで、クチクラとその直下の層の形や成分、方解石が繊維状から板状、さらに立体的な構造へと育っていく過程、そして殻が厚くなるときに鉱物と有機物がどのような順序で組み合わさるのかを調べました。
何をどう調べたか
研究には市販の白玉・赤玉の卵、計20個分の卵殻が使われました。殻は水で洗って乾かしただけで、主な分析では化学処理は加えていません。
著者らは、走査型電子顕微鏡で殻の断面や表面を細かく観察し、同時に元素の分布を調べる分析を行いました。電子顕微鏡では、表面の凹凸を映す方法と、含まれる元素の違いを濃淡として映す方法の二通りで同じ場所を撮影しています。さらに、物質ごとに固有の光の吸収や散乱のパターンから鉱物の種類を見分けるラマン分光や赤外分光、X線回折、加熱による重さの変化を測る熱分析も組み合わせました。比較のため、ニワトリの大腿骨のかけらも同じ手法で分析しています。
主な結果
観察した卵殻の厚さは約353マイクロメートルで、外側から、厚さ約1.9マイクロメートルのクチクラ、約10マイクロメートルの「垂直層」、殻の厚さのおよそ8割を占める「柵状層」、内側の乳頭状の領域、そして卵殻膜という層構造が確認されました(これらの寸法は1個の卵殻の画像から測定されたものです)。
元素の分布を調べると、リンはクチクラの下側に集まっていました。ラマン分光では、クチクラに炭酸を含むハイドロキシアパタイトがあることが示され、そのスペクトルはニワトリの大腿骨の骨の鉱物と一致しました。クチクラから垂直層へ向かって一直線上に測定していくと、ハイドロキシアパタイトの信号が徐々に弱まって方解石に置き換わっていきました。研究チームは、両者の境目ははっきり区切られているのではなく、連続的に移り変わっていると報告しています。
電子顕微鏡では、クチクラ全体に直径およそ100ナノメートルの小さな球状粒子が見られ、特にクチクラの下面に多く分布していました。また、垂直層や柵状層の板状構造の表面には、半球状の微小な構造が付着しており、その直径は垂直層で約88ナノメートル、柵状層で約57ナノメートルでした。柵状層を構成する薄い層(ラメラ)の厚さは約30ナノメートルと、さらに小さい値でした。著者らは、これらの半球が固まる前は液体を含む「ナノのしずく」で、既にある構造の上に付着して変形し、互いに融合したものと解釈しています。こうした構造は、殻を割った断面にあらわれたもので、熱分析などの結果からも、60度での乾燥のような試料の扱いでつくられたとは考えにくいとしています。
結果が示すこと
これらの観察から研究チームは、ナノサイズのしずくが次々に付着・融合することで卵殻が厚くなっていくという仕組みを提案しています。しずくには水と鉱物成分、有機成分が含まれ、鉱物と有機物が同時に組み上がるという考え方です。また、クチクラの粒子と殻内部の半球状構造は、同じ形成過程の異なる段階にあたる可能性があるとしています。さらに、骨から溶け出したリン酸カルシウムが殻づくりの場に運ばれ、方解石に変わる際にリン酸が放出される可能性にも触れていますが、これは今回のデータで直接示されたものではありません。
著者らは、これらの仕組みはあくまで現時点の証拠に支えられた仮説であり、殻の形成全体を説明する結論的なモデルではないと述べています。今回の試料は、鶏の品種や年齢、餌、卵ごとの違いといった要因を検討するようには設計されておらず、試料の調製が実際の構造を変えている可能性も残るためです。それでも本研究は、殻表面の骨と同じ種類の鉱物と、殻の主成分である方解石とのつながりを、ナノメートルの尺度で具体的に描き出したものといえます。
原著論文の著者・所属:Antonio Valadão Cardoso(School of Design, State University of Minas Gerais (UEMG), Belo Horizonte 30140-091, MG, Brazil)、Rodrigo Novaes Ferreira(Microscopy Center, Federal University of Minas Gerais (UFMG), Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Maria Sylvia Dantas(Metallurgy Department, School of Engineering, Federal University of Minas Gerais (UFMG), Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Leonardo H. R. Dos Santos(Department of Chemistry, Federal University of Minas Gerais (UFMG), Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Ana Paula Gomes(Laboratory of Characterization and Processing of Nanomaterials, Federal University of Minas Gerais (UFMG), Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Lara Luz de Assis(Department of Chemistry, Federal University of Minas Gerais (UFMG), Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Antonio Valadão Cardoso, Rodrigo Novaes Ferreira, Maria Sylvia Dantas, et al. Phosphate and Carbonate in the Biomineralization of Chicken Eggshells and the Increase in Eggshell Thickness Through Nanodroplet Addition. Animals 2026-09-25. DOI: 10.3390/ani16193023. 原著ライセンス:CC BY.