でん粉は米や小麦、いも類などに含まれるごくありふれた成分ですが、その結晶構造をナノメートル単位まで小さく加工すると、食品や工業分野で新しい機能材料として利用できる可能性があります。こうした「でん粉サブミクロ結晶」は従来、強い酸で長時間分解する方法で作られてきましたが、酸を大量に使うことや廃液処理など環境面での課題が指摘されてきました。今回紹介する研究は、この酸加水分解に代わる、より持続可能な製造法を探ったものです。

研究チームは、ブラジルとポルトガルの大学に所属する研究者らで構成されています。用いたのはでん粉の結晶構造の違いによって分類されるA型(コーン由来)、B型(キャッサバ由来)、C型(カリオカ豆由来)の3種類のでん粉です。これらに対し、まず「オーミック加熱」と呼ばれる、食品に直接電流を通すことで内部から発熱させる加熱処理を前処理として行い、その後にでん粉を分解する酵素であるα-アミラーゼを作用させるという二段階の手法を検証しました。オーミック加熱の際には電場の周波数を50Hz、10kHz、20kHzの3条件に変えて、でん粉の種類ごとにどの条件が適しているかを調べています。

オーミック加熱と酵素処理を組み合わせるとどうなるか

オーミック加熱によってでん粉の顆粒構造がある程度壊されることで、酵素であるα-アミラーゼがでん粉内部にアクセスしやすくなり、結晶化していない「非晶領域」が選択的に分解されると考えられました。この仕組みにより、でん粉粒子の結晶化度(でん粉のうちどれだけの部分が規則正しい結晶構造を保っているかを示す指標)を高めつつ、粒子サイズを小さくすることが期待されます。

実際の結果はでん粉の種類によって傾向が異なりました。B型のキャッサバでん粉では、50Hzのオーミック加熱に酵素処理を組み合わせた条件(B50+E)で結晶化度が53.2%から57.1%に上昇しました。A型のコーンでん粉では、酵素処理のみを行った条件(AN+E、結晶化度48.1%)や20kHzのオーミック加熱と酵素処理を組み合わせた条件(A20k+E、結晶化度50.1%)で、未処理のネイティブでん粉(40.4%)より結晶化度が高くなりました。一方C型のカリオカ豆でん粉では、10kHzのオーミック加熱のみを行った条件(C10k)で結晶化度が43.7%から48.7%に上昇したものの、これに酵素処理を加えた条件(C10k+E、44.6%)ではネイティブでん粉と有意な差が見られませんでした。粒子サイズについては、いずれのでん粉でも処理によりおよそ485〜662ナノメートルというサブミクロン(1マイクロメートル未満)の範囲にまで縮小したと報告されています。

これらの結果から、研究チームは最適なオーミック加熱の条件がでん粉の種類ごとに異なると結論づけています。具体的には、A型では酵素処理単独または20kHzの加熱、B型では50Hzの加熱、C型では10kHzの加熱が、それぞれ結晶化度を高めるうえで有利であったとされています。

この研究をどう読むか

この研究は、でん粉の結晶性・粒子サイズに加えて消化性、糊化(でん粉が水と熱で糊状に変化する挙動)、熱に対する安定性についても評価を行っています。ただし、これは特定の3種類のでん粉を対象とした一つの研究であり、酸加水分解に代わる方法として直ちに実用化が確定したわけではありません。でん粉の由来や処理条件によって結果が異なることが示されている点からも、他のでん粉原料や異なる処理条件での再現性については今後の検証が必要と考えられます。

この研究は、酵素とオーミック加熱を組み合わせることで、環境負荷の大きい酸を使わずにサブミクロンサイズのでん粉結晶を製造できる可能性を示したものです。でん粉の種類によって適した加熱条件が異なるという知見は、今後こうした技術を実際の食品加工や工業利用に応用していくうえでの基礎的な手がかりになると位置づけられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Raphael Lucas Jacinto Almeida, Daniela Sofia Rodrigues Martins, Francieli Colussi, et al. Sustainable route for the production of starch submicrocrystals: Effect of α-amylase combined with ohmic heating on A-, B-, and C-type starches. フード・リサーチ・インターナショナル (2026). DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120464. 原著ライセンス: cc-by.