この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Gels (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を目的にした研究か

ヘンプシード(麻の実)は油を搾るために使われることが多く、低温圧搾のあとには「ヘンプシードケーク」と呼ばれる搾りかすが大量に残ります。研究チームによれば、この搾りかすにはタンパク質や食物繊維、搾りきれずに残った油脂がまだ豊富に含まれているにもかかわらず、食品としての利用はあまり進んでいません。

論文が着目したのは、この未精製の搾りかすを植物性代替肉の原料としてそのまま使えるかどうかという点です。著者らは、これまでの研究が精製された麻タンパク質の濃縮物や分離物を使う例に偏っており、低温圧搾の搾りかすを丸ごと代替肉の材料に混ぜ込んだ研究はほとんどないと述べています。搾りかすはタンパク質だけでなく食物繊維や油脂も同時に持ち込むため、タンパク質含量だけからは働きを予測できず、加熱と機械的な力が加わる加工条件のもとで系統的に評価する必要があるというのが、研究チームの問題設定です。

そこで論文では、大豆分離タンパク・小麦グルテン・コーンスターチを基本とした配合(重量比60:30:10)に対し、ヘンプシードケークを0%から20%まで置き換えて配合し、加工中の性質と出来上がった製品の性質を調べています。

どのように調べたか

用いられたのは「高水分押出成形」という製法です。これは原料に多めの水を加え、熱・せん断・圧力をかけながら押し出し、最後に冷却ダイを通すことで、肉のような向きのそろった繊維状の構造をつくる方法です。論文の条件では、スクリュー回転数300rpm、原料水分65%、供給量90g/分、バレル温度150℃で加工が行われました。

加工前の性質については、粘度計(ラピッド・ビスコ・アナライザー)で加熱・冷却にともなう粘りの変化(糊化特性)を測り、さらに回転式レオメータで25℃から95℃へ加熱し再び25℃まで冷やす温度サイクル中の貯蔵弾性率(G′)と損失弾性率(G″)を測定しています。G′は弾性的な、G″は粘性的な性質の指標で、G′がG″を上回る状態はゲルのような弾性主体の構造ができていることを示します。

出来上がった押出物については、外観、膨張比、かさ密度、色、二回圧縮による硬さやしなやかさなどの食感、そして繊維の向きに沿った方向と直交する方向の切断強度が測定されました。この二方向の切断強度の比は「組織化度」と呼ばれ、構造の方向性(異方性)の目安として用いられます。

主な報告結果

加工前の糊化特性では、搾りかすの配合量が増えるにつれて最高粘度が一貫して低下し、対照(0%)の約2098cPから20%配合では約1258cPまで下がったと報告されています。最高粘度に達するまでの時間も、対照の約7.6分から20%配合では約11.6分へと延びました。著者らはこれを、配合中のデンプン比率が下がったこと、および搾りかすの食物繊維や油脂が水の取り合いや水の浸透の遅れを引き起こしたことと関連づけて説明しています。

温度サイクル中の測定では、すべての配合でG′がG″を上回り続け、両者が交差することはありませんでした。搾りかすの配合量が多いほど加熱前の初期のG′・G″は低くなる傾向がありましたが、80〜90℃付近で急激に上昇し、冷却の過程でさらに高まって、最終的な弾性率は対照と同程度に達したと報告されています。研究チームはこれを、搾りかすが初期の粘弾性を変えつつも、熱処理を通じてゲル状の網目構造をつくる能力は保たれていることを示すものと解釈しています。

製品の性質では、20%まで配合しても繊維状の外観が損なわれず、15%・20%ではむしろ比較的緻密で向きのそろった繊維領域が見られたとされています。食感については、15%と20%で硬さと噛みごたえ(チューイネス)が有意に低下し、一回目の硬さは対照の44.02Nから38.88Nへ下がりました。一方で、しなやかさ(83.25〜84.22%)、凝集性(45.24〜46.41%)、硬さの低下率(1.19〜1.20)は大きく変わりませんでした。切断強度は逆に上昇し、繊維に平行方向では対照の8.32g/mm²から20%配合で9.61g/mm²、直交方向では8.67g/mm²から11.03g/mm²になりました。組織化度は0〜10%で1.04のまま、15%で1.11、20%で1.15と数値上は上がりましたが、統計的な有意差は認められていません(p>0.05)。色については、赤みが減り黄色みが増す方向へ変化し、対照との色差が最も大きかったのは20%配合(ΔE=2.38)でした。

この結果が意味すること

圧縮で測る硬さが下がったのに、切断に対する抵抗は上がったという一見ねじれた結果について、著者らは、二つの測定が別のことを見ているためだと説明しています。二回圧縮による硬さは試料全体を変形させるのに必要な力を反映し、方向別の切断強度は繊維構造に沿った/横切る抵抗をより強く反映します。つまり、硬さの低下は必ずしも方向性のある構造が崩れたことを意味しないという読み方です。

論文の結論として、低温圧搾のヘンプシードケークは、20%までの置き換えなら熱による網目形成能力と繊維状構造の特徴を保ったまま、従来の大豆タンパク・小麦グルテン・コーンスターチの一部を代替できる可能性を持つ素材だとされています。糊化挙動や食感、切断強度、色には変化が生じるものの、製品としての基本的な品質と繊維構造は維持されたという報告です。

油を搾ったあとの残りかすという、これまで食品にあまり活かされてこなかった素材が、代替肉の骨格をつくる役割を担いうることを示した点に、この研究の意味があります。搾りかすの中のタンパク質・食物繊維・油脂それぞれがどう寄与しているのかは、著者ら自身が今後の検討課題として挙げている部分です。

著者:Jeon H(Department of Food Science and Technology, Food and Feed Extrusion Research Center, Kongju National University, Yesan 32439, Republic of Korea.)、Gu BJ(Department of Food Science and Technology, Food and Feed Extrusion Research Center, Kongju National University, Yesan 32439, Republic of Korea.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jeon H, Gu BJ. Thermal Rheology and Fibrous Structure of High-Moisture Meat Analogs with Hemp Seed Cake. Gels (Basel, Switzerland) 2026-08-28. DOI: 10.3390/gels12090773. 原著ライセンス:CC BY.