著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
リゾチームは、細菌の細胞壁を形づくる成分の結合を切断して細菌を壊す酵素です。体を感染から守る仕組みの一つとして、人や多くの動物が持っています。研究や産業でよく使われるのはニワトリの卵白から得られるリゾチームで、その性質は詳しく調べられています。一方、ほかの鳥の卵白に含まれるリゾチームの働きは、あまり分かっていませんでした。
研究チームはキジの卵白リゾチームに注目し、ニワトリの卵白リゾチームと比べました。調べたのは二つの働きです。一つは細菌の細胞壁を分解して細菌を溶かす働き、もう一つはキチン由来の糖の鎖を切る働きです。キチンはN-アセチルグルコサミンという糖が連なった物質です。キジのリゾチームはニワトリのものとアミノ酸の並びがよく似ていますが、酵素が糖鎖をつかんで切る「活性部位」の周辺にも違いがあります。著者らは、この違いが働きにどう影響するかを確かめようとしました。
何をどう調べたか
研究チームは、ニワトリ10羽とキジ10羽から卵を1個ずつ入手し、卵白を試料にしました。細菌を溶かす働きは、細菌(ミクロコッカス・ルテウス)を浮かべた液を使って調べました。酵素で細菌が壊れると液の濁りが薄れていくので、その変化の速さから活性を見積もりました。
糖鎖を切る働きは、蛍光偏光という方法で調べました。N-アセチルグルコサミンが3個つながった短い糖鎖と、5個つながった糖鎖を用意し、それぞれに蛍光の目印を付けました。目印付きの糖鎖が酵素に結合すると蛍光偏光の値が上がり、切断されて酵素から離れると値が下がります。この値の時間変化を追えば、酵素が糖鎖に結合しただけなのか、実際に切断しているのかを区別できます。さらに、キジのリゾチームで処理した後に何ができたかを、質量分析と核磁気共鳴(NMR)で調べました。
主な結果
細菌を溶かす働きは、どちらの卵白にもありました。ただし同じ条件で比べると、キジのリゾチームの活性はニワトリより約30%低いと報告されています。
糖鎖を切る働きでは、はっきりした違いが見られました。5個つながった糖鎖は、どちらのリゾチームもよく切断しました。一方、3個の短い糖鎖について、ニワトリのリゾチームは結合するだけで切断しませんでした。これに対し、キジのリゾチームはこの短い糖鎖も切断しました。キジの卵白試料で比べると、5個の糖鎖が切られる速さは3個の糖鎖の50〜70倍でした。精製した酵素どうしで比べた見かけの分解速度も、キジのリゾチームの方がニワトリより高い値でした。
生成物の分析では、反応の途中で二糖などの断片が見つかりました。長時間反応させた後には単糖だけが検出され、二糖まで分解が進んだことが示されました。著者らは、これまで報告されたニワトリや人、その他多くの鳥の卵白リゾチームと異なる特徴だとしています。
著者らは過去の報告をもとに、キジのリゾチームとニワトリのリゾチームのアミノ酸の違いを6か所としています。そのうち活性部位の近くにある置き換わりが、短い糖鎖をつかむ部分の形を変えている可能性があると考察しています。ただし、これは構造から導いた推定であり、今後の実験による検証が必要だと著者ら自身が述べています。
この研究が示すこと
キジのリゾチームは、アミノ酸の並びがニワトリのものと非常によく似ています。それでも、細菌を溶かす力に量的な差があり、短い糖鎖を切れるかどうかという質的な差も見られました。この研究は、わずかなアミノ酸の違いでも酵素の働き方が変わりうることを示しています。また、よく使われるニワトリ以外の鳥のリゾチームにも、まだ知られていない性質が見つかる可能性を示しています。
原著論文の著者・所属:Liliya I. Mukhametova(Faculty of Chemistry, M.V. Lomonosov Moscow State University, Leninsky Gory 1/3, 119991 Moscow, Russia)、Dmitry O. Zherdev(Faculty of Chemistry, M.V. Lomonosov Moscow State University, Leninsky Gory 1/3, 119991 Moscow, Russia; Laboratory of Glycoconjugate Chemistry, N.D. Zelinsky Institute of Organic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Leninsky Prospect 47, 119991 Moscow, Russia)、Anton N. Kuznetsov(Laboratory of Synthetic Glycovaccines, N.D. Zelinsky Institute of Organic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Leninsky Prospect 47, 119991 Moscow, Russia)、Julia V. Burykina(Laboratory of Metal-Complex and Nanoscale Catalysts, N.D. Zelinsky Institute of Organic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Leninsky Prospect 47, 119991 Moscow, Russia)、Olga N. Yudina(Laboratory of Glycoconjugate Chemistry, N.D. Zelinsky Institute of Organic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Leninsky Prospect 47, 119991 Moscow, Russia)、Svetlana M. Filimonova(Institute of Pharmacy, FSAEI HE I.M. Sechenov First MSMU of MOH of Russia (Sechenovskiy University), 119435 Moscow, Russia)、Sergei A. Eremin(Faculty of Chemistry, M.V. Lomonosov Moscow State University, Leninsky Gory 1/3, 119991 Moscow, Russia)、Vadim B. Krylov(Laboratory of Synthetic Glycovaccines, N.D. Zelinsky Institute of Organic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Leninsky Prospect 47, 119991 Moscow, Russia)、Nikolay E. Nifantiev(Laboratory of Glycoconjugate Chemistry, N.D. Zelinsky Institute of Organic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Leninsky Prospect 47, 119991 Moscow, Russia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Liliya I. Mukhametova, Dmitry O. Zherdev, Anton N. Kuznetsov, et al. Pheasant Egg White Lysozyme vs. Hen Egg White Lysozyme: A Comparative Study of Enzymatic Activity. Foods 2026-09-24. DOI: 10.3390/foods15193402. 原著ライセンス:CC BY.