この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Physiology & Behavior

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発され、現在は肥満などに対する体重管理にも使われている薬です。研究チームは、この薬を使っている人では食べる量が減り、体重が減ることが知られている一方で、その背景に「味やにおいの感じ方の変化」がどのくらい関わっているのかは十分に分かっていない、と指摘しています。

そこで著者らは、肥満のある成人を対象に、GLP-1RAの使用状況と、化学感覚(味覚・嗅覚など、化学物質を感じ取る感覚)の働き、そして食行動との関連を調べました。ここでいう化学感覚には、どのくらい薄い濃度から味を感じ取れるかという「検知閾値」、はっきり感じる濃度での味の強さ、味の好み、においの感じ方などが含まれます。

何をどう調べたか

この研究は横断研究、つまりある一時点での集団どうしを比べる設計です。肥満のある成人79人が、GLP-1RAの使用状況によって3つのグループに分けられました。治療の対象にはなるがまだ使っていない人(27人)、使い始めておよそ1か月の人(25人)、およそ6か月の人(27人)です。薬の種類はチルゼパチドまたはセマグルチドの報告が中心でした。

参加者は約1時間ずつ2回の来室で、甘味・塩味・酸味・苦味の検知閾値、強い濃度での味の強さの評定、好みの濃度を自分で調整してもらう課題、脂肪の味、口の中の刺激感(シナモンによるヒリヒリ感)、においの検知と識別、そしてレモンを見てにおいを嗅いだときの唾液分泌といった検査を受けました。あわせて、食べ物のことが頭から離れない状態を測る「フードノイズ」、食べ物の手がかりへの反応のしやすさ、渇望、食べ物の報酬価(食べ物がどれだけ魅力的で欲しいと感じられるか)を問う質問票に回答し、24時間の食事思い出し法で食事内容も記録しました。

主な報告結果

味覚については、甘味の検知閾値にグループ間の差がみられました。GLP-1RAを使っている1か月群・6か月群はいずれも、未使用群より閾値が高い、つまりより濃くしないと甘味を感じ取りにくい傾向でした。塩味・酸味・苦味も同じ方向への差はありましたが、統計的に意味のある差とはされていません。強い濃度での味の強さ、味の好み、嗅覚の働き、口の刺激感には、おおむね差がありませんでした。例外として脂肪の味では、中程度のリノール酸濃度で未使用群のほうが6か月群より強く感じると評定した、という限定的な差が報告されています。

食行動の側では違いがより目立ちました。フードノイズの得点は6か月群で未使用群より低く、6か月群では食べ物の手がかりへの反応のしやすさ、渇望、食べ物の報酬価、そしてエネルギー摂取量がいずれも低いという結果でした。一方、たんぱく質の摂取量にはグループ間で有意な差は認められませんでした。食べ物の画像を使った課題では、高脂肪の食品に対する「好き」「食べたい」という評価が使用群で低い傾向が示された一方、低脂肪の食品では差がみられませんでした。検査前の主観的な空腹感や食べたい気持ち、食べ物への没頭についても、未使用群のほうが高いと報告されています。

この研究が示すこと

著者らはこれらを総合して、GLP-1RAの使用は、食べ物が心を占める度合いや渇望、手がかりへの反応、食べ物の報酬価、エネルギー摂取量の低さと関連しており、化学感覚の違いは主に甘味の検知に限られていた、とまとめています。

つまり、この薬を使う人で食べ方が変わって見えるとき、味やにおいを感じ取る感覚そのものが大きく塗り替えられているというよりは、食べ物に向かう欲求や注意の向き方といった行動面の違いのほうが目立った、という構図が報告されたことになります。なお本研究は一時点で異なるグループを比べた横断研究であり、著者らは探索的な位置づけの解析も含まれると述べています。

著者:Giorgia Rutigliani(Department of Nutrition Science, Purdue University, West Lafayette, IN, United States)、Richard D. Mattes(Department of Nutrition Science, Purdue University, West Lafayette, IN, United States. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Giorgia Rutigliani, Richard D. Mattes. The effects of glucagon-like peptide-1 receptor agonists on chemosensory function and ingestive behavior. Physiology & Behavior 2026-08-25. DOI: 10.1016/j.physbeh.2026.115486. 原著ライセンス:CC BY.