日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの研究が行われたのか
L-プロリンは、肉や乳製品、卵など日常の食品に含まれるアミノ酸で、体内でもアルギニンやグルタミンなどからつくられます。たんぱく質の材料になるだけでなく、グルタミン酸の前駆体としても働き、皮膚や血管、結合組織の主成分であるコラーゲンに多く含まれる成分でもあります。
一方で、著者らは、食事から普通にとる量を超えてサプリメントとして補給した場合の人での安全性のデータが乏しいと指摘しています。論文では、ノルウェーの食品環境科学委員会(VKM)が、よく管理されたヒト試験が少ないため、サプリメントとしてのL-プロリンについて包括的なリスク評価を行うには証拠が不十分だと結論づけたことが紹介されています。そこで研究チームは、健康な成人男性を対象に、段階的な量のL-プロリンを4週間とってもらい、安全性の面で問題となる兆候が見られなかった最も高い投与量を確かめることを目的としました。著者らによれば、4週間の補給についてこの点を評価した研究はこれが初めてです。
どのように調べたか
試験は、無作為化・二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験として行われました。参加者をくじ引きのように割り付け、参加者も評価する側もどの量を飲んでいるか分からない状態にし、さらに一人の参加者が期間を分けて複数の量を順番に試す方法です。対象は日本の大阪で募集された20〜60歳の健康な成人男性30人で、心臓・肝臓・腎臓・呼吸器・糖尿病・消化器の病気の既往がある人などは除かれました。
L-プロリンは1日0(プラセボ)、3、6、9、12グラムの5段階が用意され、それぞれの参加者は決められた順序でこのうち4つの量を経験しました。1つの量を4週間続け、期間の間には少なくとも2週間の休薬期間を置いて、前の期間の影響が次に持ち越されないようにしています。プラセボにはコーンスターチが使われ、1日分は29個のカプセルに分けて食事とともに1日3回とる形で、カプセルの摂取率は全期間で99%以上でした。
主な評価項目は、8時間以上絶食した朝に採血して測る血液の検査値です。血球の数、肝臓や腎臓、脂質、血糖に関わる生化学の項目、ナトリウムやカリウムなどの電解質が含まれます。副次的な評価項目は有害事象(試験期間中に起きた好ましくない出来事)の発生と程度で、体重やBMI、血圧、心拍数、食事調査による摂取エネルギーや栄養素量も確認されました。加えて探索的な項目として、血液中の各アミノ酸の濃度が測定されました。
報告された主な結果
論文の報告では、3、6、9、12グラムのいずれの量でも、血液の生化学検査、電解質、血球の検査値にプラセボと比べて臨床的に意味のある変化や統計的に有意な異常は見られませんでした。体重やBMI、血圧、心拍数、食事からのエネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物の摂取量も、試験期間を通じて変わりませんでした。
有害事象は合計12件報告され、8件が軽度、4件が中等度で、入院を要する重篤なものはありませんでした。内容は胃腸の症状、アレルギー反応、発熱、体重増加、頭痛、口内の症状、ウイルス感染などで、プラセボ期間にも起きています。試験の医師がそれぞれを評価し、いずれも補給との関連はないと判断されたと報告されています。
探索的に調べた血液中のアミノ酸では、9グラム(1.45倍、p=0.013)と12グラム(1.75倍、p<0.001)で、絶食時の血中L-プロリン濃度がプラセボより高くなりました。一方、グルタミン酸、アルギニン、オルニチン、シトルリンといったL-プロリンの代謝に関わるものを含め、ほかのアミノ酸の濃度はどの量でも変わりませんでした。また、4段階の補給と休薬期間を経たあとの血中L-プロリン濃度は、試験開始前の値と統計的な差がなく、著者らは持ち越しの影響はごく小さいとしています。
この報告が示していること
著者らは、健康な成人男性において、1日12グラム(体重1キログラムあたり172.6ミリグラム)までのL-プロリンを4週間とることは安全でよく耐えられ、この試験の条件のもとで安全性上の兆候が認められなかった最も高い投与量は12グラム/日であると結論づけています。この12グラムは、今回試された中で最も多い量でもあります。
同時に論文は、この結果が今回の条件に限られたものであることを明示しています。対象は健康な成人男性であり、12グラム/日が長期にとり続けた場合にも安全かどうかを確かめるには長期の研究が必要だと著者らは述べています。また、高用量で血中L-プロリンが上がった背景にどのような組織レベルの適応があるのかは今回の検討範囲の外だとしています。
これまで人でのデータが少ないために包括的なリスク評価が難しいとされてきた領域に、よく管理された試験からの安全性データが加わったこと自体が、この研究の意味だと言えます。著者らは、この結果が今後の臨床・栄養研究の出発点となる摂取量の目安を示すものだと位置づけています。
著者:Hideki Matsumoto(Bio and Fine Chemicals Division, Ajinomoto Co., Inc, Tokyo, 104-8351, Japan)、Francois Blachier(UMR Nutrition Physiology and Alimentary Behavior, Université Paris- Saclay, INRAE, AgroParisTech, Palaiseau, 91120, France)、Naoki Miura(Miura Medical Clinic, Higashitenma, 530-0044, Osaka, Japan)、Masaki Naito(Bio and Fine Chemicals Division, Ajinomoto Co., Inc, Tokyo, 104-8351, Japan)、Rajavel Elango(BC Children’s Hospital Research Institute, BC Children’s Hospital, Vancouver, B.C, V5Z 4H4, Canada)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hideki Matsumoto, Francois Blachier, Naoki Miura, et al. Safety and tolerability of L‑Proline intake in healthy adult men: a randomized, double‑blind, placebo‑controlled crossover study. Scientific Reports 2026-09-08. DOI: 10.1038/s41598-026-70978-5. 原著ライセンス:CC BY.