この研究は、ベトナムの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Vietnam Journal of Science and Technology/Science and Technology

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

研究チームは、水中に溶けたごくわずかな化学物質を、その場で素早く測れる小型のセンサーをつくることを目指しました。狙いは、装置が簡単で低コストでありながら、低濃度の物質にも敏感に反応するセンサーを実現することです。

この研究が土台にしているのは「局在表面プラズモン共鳴(LSPR)」と呼ばれる現象です。金属のナノ粒子に光が当たると、粒子の中の電子がまとまって揺れ動き、特定の波長の光を強く吸収します。この吸収が起きる波長は、粒子のまわりの環境、とくに屈折率(光の進み方を表す値)のわずかな変化によってずれます。そのずれを読み取ることで、まわりにどんな物質がどれだけあるかを推し量ることができる、というのが基本的な考え方です。

ただし、ふつうの光ファイバーは光を内部に閉じ込めて運ぶようにできているため、外側の液体と光が触れ合う余地がほとんどありません。そこで論文では、ファイバーの側面を削ってアルファベットの「D」のような断面にし、光の一部がにじみ出る領域をつくる方法を採用しています。著者らによれば、D形の構造は感度と機械的な丈夫さのバランスがよい点が利点だとされています。

何をどのように調べたか

研究チームはまず、光を導く中心部(コア)の直径が105マイクロメートル、その周囲を覆うクラッドまで含めた直径が125マイクロメートル、さらに外側のポリマー被覆まで含めた直径が250マイクロメートルのマルチモード光ファイバーを使い、側面研磨によってD形の構造をつくりました。研磨中は光ファイバーの両端に赤色レーザーと光パワーメーターをつなぎ、光の損失をその場で監視することで削る深さを制御しています。最終的に、深さ52.18マイクロメートル、長さ12ミリメートルのD形部分が得られたと報告されています。

機械的に削ると表面に凹凸が残り、にじみ出た光が散らばって感度が下がってしまいます。そこで12%のフッ化水素酸溶液に18分間浸す化学エッチングを行い、表面をなめらかにしました。電子顕微鏡による観察では、エッチング後に表面がはっきりとなめらかになったことが確認されたとされています。

次に、この削った領域に金ナノ粒子を固定しました。用いられたのは「レーザー支援プラズモン媒介法」と呼ばれる手法です。金の微小な種粒子と金の化合物を含む溶液にファイバーの削った部分を浸し、波長650ナノメートル・出力820ミリワットのレーザー光を5分間通します。すると、にじみ出た光がつくる局所的な電磁場が種粒子を表面に引き寄せて固定し、さらにその粒子の上で溶液中の金イオンが還元されて粒子が成長していく、という仕組みです。電子顕微鏡とEDX(エネルギー分散型X線分光)による分析では、平均直径およそ56ナノメートルの球形の粒子が密に、かつ均一に並んでいることと、金・ケイ素・酸素という想定どおりの元素が含まれていることが確認されました。

完成したセンサーは、片端にハロゲンランプ(白色光源)、もう片端に分光器をつないで使います。削った部分を試料の液に浸し、通り抜けてきた光のスペクトルの変化を測定する仕組みです。

主な報告結果

研究チームはまず、屈折率のわかっている6種類の溶媒を使って基本性能を調べました。屈折率1.328のメタノールから1.378のイソプロパノールまで順に測定したところ、共鳴の谷の波長は507.58ナノメートルから718.38ナノメートルへと、長い波長側へ移動していきました。この範囲全体では210.8ナノメートルの大きなずれにあたり、まわりの屈折率の変化に対してセンサーがはっきりと応答することが確かめられたとしています。

続いて、実際の対象として殺虫剤ペルメトリンを用いた検出実験が行われました。ペルメトリンはピレスロイド系の農薬で、農業のほか、デング熱やマラリアなど蚊が媒介する病気への対策にも広く使われています。論文では、米国環境保護庁がヒトに対する発がん性の可能性がある物質として分類し、使用に制限が設けられていることにも触れられています。

ペルメトリンは水に溶けにくいため、まずメタノールに溶かして1000ppmの原液をつくり、これを超純水で薄めて0.5ppmから3ppmまでの各濃度の溶液を用意しました。測定の結果、濃度が上がるにつれて共鳴の谷の波長が段階的に長い側へずれていく様子が観測されました。それぞれの濃度で5回ずつ繰り返して測ったところ波長の変動は小さく、測定の再現性が高いことが示されたと報告されています。

0.5ppmから3ppmの範囲では、波長のずれと濃度のあいだに良好な直線関係が成り立ち、1ppmあたり5.221ナノメートルという傾きが得られました。この傾きと、水だけを測ったときのばらつき(標準偏差0.209ナノメートル)から計算された検出限界は、およそ0.12ppmでした。

この研究が示すこと

この研究が示したのは、高価な専用設備や複雑な工程に頼らずに、光ファイバーを削り、レーザーの力を借りて金ナノ粒子を並べるだけで、農薬をppmよりさらに低い水準まで捉えられるセンサーがつくれる、ということです。標識となる分子をあらかじめ付ける必要がなく、光のスペクトルの変化をそのまま読み取るため、リアルタイムでの測定に向いた仕組みでもあります。

著者らは、この結果が環境モニタリングや食品の安全、農業における残留物の分析といった分野で、小型で持ち運びやすい化学センサーの可能性を広げるものだと位置づけています。

著者:Thanh Binh Pham(\(^1\) Institute of Materials Science, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Nguyen Van Chuc(\(^1\) Institute of Materials Science, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Vu Đuc Chinh(\(^1\) Institute of Materials Science, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Hoang Thi Hong Cam(\(^2\) University of Science and Technology of Hanoi, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Nguyen Hai Binh(\(^3\) Faculty of Electronics and Telecommunications, Electric Power University, 235 Hoang Quoc Viet Street, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Nguyễn Thùy Vân(\(^1\) Institute of Materials Science, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Bui Huy(\(^1\) Institute of Materials Science, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)、Pham Van Hoi(\(^1\) Institute of Materials Science, Vietnam Academy of Science and Technology, 18 Hoang Quoc Viet, Nghia Do Ward, Ha Noi, Viet Nam)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Thanh Binh Pham, Nguyen Van Chuc, Vu Đuc Chinh, Hoang Thi Hong Cam, Nguyen Hai Binh, Nguyễn Thùy Vân, Bui Huy, Pham Van Hoi Laser-assisted fabrication of D-shaped multimode fiber LSPR chemical sensor decorated with gold nanoparticles for pesticide detection. Vietnam Journal of Science and Technology/Science and Technology 2026-09-12. DOI: 10.15625/2525-2518/22990. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。